Efficient Communication for Platooning and Overtaking in Intelligent Transport Systems

(邦訳:高度交通システムにおける隊列走行と追越制御のための通信方式)
 
鈴木 理基
(株)KDDI研究所

[背景]単独隊列自動走行方式の確立
[問題]複数隊列および一般車混走時の通信性能低下ならびに追越動作の干渉
[貢献]擬似TDMAフレームを用いた通信プロトコルならびに排他制御を利用した追越制御

 近年,人・車・道路が融合し将来の安全・安心かつ環境にやさしい車社会を構築するIntelligent Transport Systems(ITS)の研究が進展している.ITSでは,スムーズな交通の促進,空気抵抗削減や不要な加減速回避による燃費改善効果,自動運転によるドライバ負荷軽減効果という観点から協調走行の研究が進み,とりわけ,複数車両が短い車間距離で車群を形成し,目的地まで走行する隊列走行が注目されている.

 従来の隊列走行研究は,主として単独隊列を対象とし,隊列を形成,および維持する方式を確立した.したがって,今後の実用化においては,複数隊列や非隊列車両の混走が予想され,隊列走行の維持に必要となる通信プロトコルならびに隊列と非隊列車両の追越制御が重要となる.

 本研究は複数隊列走行時に予想される無線帯域の輻輳ならびに隠れ端末による偏った通信負荷を解決するため,隊列走行用タイムスロット通信プロトコルを提案する.本プロトコルでは,図に示す通り,タイムスロット化したCarrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance(CSMA/CA)チャネル上の擬似Time Division Multiple Access(TDMA)フレームを導入し,スロットの使用状況を車両間で交換しながら共有する.また本プロトコルでは,輻輳時には連送数を減少し,輻輳していない場合には連送数を増加させる連送数制御を導入し,無線帯域の輻輳および隠れ端末による特定車両への偏った通信負荷を回避し,隊列内全車両への高い情報伝達率を得る.さらに,隊列のリーダ車両が他メンバ車両を代表してスロットを予約し,割り当てることで,隊列メンバ間でのスロット競合,通信量の偏りを回避し,隊列維持率を改善する.シミュレーションにより提案プロトコルを従来プロトコルと比較し,情報伝達率と隊列維持率の観点から複数隊列走行時における有効性を確認した.

 また本研究は,車車間通信を用いた追越動作制御方式を提案する.ここでは,隊列は指定レーンを走行し,低速車が隊列の前方を走行する場合には隊列に道を譲ることならびに後続する高速車両が隊列を追越すことを想定する.両者が同時に発生する場合,高速車は低速車を追越せない状況が発生する.本研究ではこの問題を追越動作の干渉と呼び,分散排他制御のアルゴリズムを用いて解決する.隊列と隣接する追越車線部分をクリティカルセクションとし,車両を1台ずつ進入させるように制御することで,追越動作の干渉を回避し,不必要な加減速をなくし,二酸化炭素排出量を削減する.排他制御はトークン方式とパーミッション方式の2方式が考えられるが,トークン方式の方が合意形成に必要なメッセージ数が少ないため,車両の追越要求から着手までの待機時間を削減できる.シミュレーションの結果から,提案方式が不必要な加減速,二酸化炭素排出量,待機時間を削減し,スムーズな追越動作が可能となることを確認した.

 以上より,本研究は隊列走行の実用化にむけて,複数隊列ならびに非隊列車両が混走する環境下における有効な通信プロトコルならびに追越制御方式を示した.
 


 (2014年5月31日受付)
取得年月日:2013年9月
学位種別:博士(工学)
大学:慶應義塾大学



推薦文
:(高度交通システムとスマートコミュニティ研究会)


本論文では,隊列走行の実用化に向けて,複数隊列ならびに非隊列車両が混走する環境下における通信プロトコルならびに追越制御方式を提案し,シミュレーションにより有効性を確認している.その成果は,次世代の交通システムへの応用が期待され,大きな将来性を持つ研究であるため,研究会推薦博士論文速報に推薦する.


著者からの一言


この度はご推薦いただき,誠に有難うございます.本研究は指導教員である重野先生をはじめとする,多くの方々のご支援のおかげで,成果をあげることができました.特にITS研究会の皆様とは,本研究について活発に議論させていただき,心より感謝申し上げます.今後はモバイルネットワーク分野の研究に従事し,社会に貢献できるよう精進して参ります.