A Study on Analysis and Utilization of Crowd-sourced Spatio-temporal Contexts from Social Media

(邦訳:ソーシャルメディアからの群衆ベースの時空間コンテキストの分析と活用に関する研究)
 
若宮 翔子
京都産業大学コンピュータ理工学部 研究員

[背景]ソーシャルメディアにおける大量ユーザによる投稿コンテンツの蓄積
[問題]ソーシャルメディアの特性を考慮した投稿コンテンツの分析・活用
[貢献]協調的特性と時空間的特性に基づく投稿コンテンツ分析・活用システムの提案


 自身の近況を共有できるTwitter,位置情報を共有できるFoursquare,動画コンテンツを共有できるYouTube やニコニコ動画など,ユーザ投稿コンテンツを共有できるソーシャルメディアが急速に普及している.これらソーシャルメディアにおける投稿コンテンツは,ユーザの自発的な参加によってこれまでにない規模のビッグデータを生み出しており,大量のユーザの経験と実世界の状況をリアルタイムに反映していることから,その利用価値に期待が集まっている.

 本研究では,ソーシャルメディアの大量のユーザが共有している協調的メディア特性と,実世界を反映したリアルタイム性の高いコンテンツが発信されている時空間的メディア特性に基づき,大量投稿コンテンツを効果的に利活用するための分析技術を開発した.

 本研究で開発した2つの特性に基づく分析技術とそのアプリケーションについて以下で述べる.

【A. 協調的メディア特性を生かした分析とその応用】
A-1)ユーザコメント間の関係分析による共有動画シーン抽出
 共有動画シーンに付与されたユーザコメントをアノテーションとして活用するために,ユーザコメント間の関係性を判定する手法を開発した.ここでは,矩形の画面領域と表示時区間が指定されたユーザコメントの利用を想定した.画面領域の関係(絶対的な位置関係や相対的な位置関係)に基づく同一オブジェクト判定と,時区間の関係(オーバーラップや前後関係など)に基づく同一イベント判定手法を開発した.これにより,同一オブジェクトシーンや同一イベントシーンを抽出するシステムを実現した.

A-2)マイクロブログとビデオコンテンツの対応付けによる統合的ビデオランキング
 マイクロブログとビデオコンテンツ(テレビ番組や共有動画)の関連性を判定して各ビデオコンテンツの視聴ユーザを特定するためのシステムを開発した.具体的には,テキスト類似度(番組タイトルとテキストメッセージ),時間距離(放送時間と発信時間),空間距離(放送局の位置と発信位置)の3つの尺度に基づき,EPG(電子番組ガイド)に基づく番組情報とマイクロブログの関連度を算出した.これにより,テレビ番組と共有動画を統合したランキングを提示した.

【B. 時空間的メディア特性を生かした分析とその応用】
B-1)群衆の振る舞い分析による地域特徴付け
 位置情報付きマイクロブログを用いてある地域における人々の振る舞いを時間帯ごとに観察し,重要な振る舞いパターンを地域特徴として抽出する手法を開発した.これにより,物理的な外観だけでなく,その地域における人々の行動に基づく地域特徴を把握することを可能にした.

B-2)群衆の移動分析による認知地図生成
 位置情報付きマイクロブログを用いて人々の移動を観察し,距離ベースの地域間の関係性を判定して認知地図を生成する手法を提案した.具体的には,物理距離と群衆の移動量に基づく社会的認知距離から地域間の相対的な距離感を測定し,地域を再配置した.これにより,物理的には遠いが認知的には近い,反対に物理的には近いが認知的には遠いといった物理空間と人々の認知空間に存在する距離ベースのギャップを反映した地図を生成した.
 


 (2014年5月31日受付)
取得年月日:2013年9月
学位種別:博士(環境人間学)
大学:兵庫県立大学



推薦文
:(データベースシステム研究会)


本論文は,大量に蓄積・伝達されているさまざまなユーザ生成コンテンツ(CGM)を適切に分析し,効率的かつ有効的な活用方法についての先進的な技術について論じている.特に,メディアコンテンツから抽出されたデータによる社会状況の分析は,新たな研究対象に対する取り組みであり,大きな将来性を持つ研究と期待される. 


著者からの一言


ソーシャルメディアの利用は多くの人々の生活の一部になっており,その中で発信されるコンテンツには興味深い経験や知識が含まれています.特に,絶えず変化している社会を反映しているという点で,投稿コンテンツの分析・活用については,今後も研究する価値が高いと考えています.これまで指導していただいた先生方や研究室メンバに感謝いたします.