持続的かつ倫理的な情報活用能力養成のための情報教育体系の研究

 
辰己 丈夫
放送大学教養学部 准教授

[背景]利用方法の観点から見た情報活用能力の必要性
[問題]情報倫理教育=法令遵守教育とされていることによる問題
[貢献]持続的な情報活用能力を学ぶ意欲を向上させる授業方法の提示
 
 情報倫理教育は,情報技術が普及し,職業的な利用者が登場すると同時に,必要な教育として認識されるようになった.さらに,職業とは関係なく情報機器を利用者が増えたことで,情報倫理はますます重要になった.我が国では,1990年代後半から,情報倫理教育の必要性が認識され始めてきた.一方で,「情報リテラシー」とも呼ばれる情報活用教育は,高等学校においては2000年頃から必履修教科として「情報」が設置され,それに伴い大学においても情報教育の内容は修正・充実が行われた.だが,現在の高等学校における情報教育の実施状況を鑑みると,単に学習指導要領の変更を反映させただけでは学生をとりまく情報環境に対応できていないと言える.

 「情報リテラシー」とも呼ばれる情報活用教育の内容は,2000年頃から高等学校において必履修教科として「情報」が設置され,大学における情報教育も,この変化に対応して修正・充実が行われた.だが,我が国の高等学校における情報教育の,現在の実施状況を鑑みると,単に学習指導要領の変更を反映させただけでは学生の実情に対応できない状況となってしまった.情報リテラシー教育の充実は解決されなければいけない課題のひとつである.また,現在の大学における情報教育は,我が国の高等学校までの情報教育からのスムーズな接続ができているとはいい難い状況である.そこで,本研究では,大規模なアンケート調査によって「高等学校の情報教育では,情報倫理教育によく似た『情報モラル教育』が非常に重視されているものの,それを学んだ大学1年生が情報倫理などの学習意欲が非常に低く,情報活用能力の自学自習的な育成に問題がある」ことを明らかにした.

 米国においては,1998年には情報フルーエンシーという概念が登場し,持続性のある情報活用能力の育成のための学習内容が整備されていた.そこで,本研究の過程において,情報フルーエンシーの考え方をもとにして情報倫理教育の重要性を示した.具体的には,情報倫理教育は4つのカテゴリに分類され,それぞれの学習方法や適切な学習時期があることを示した.次に,この結果に基づいた情報倫理の授業方法を考案した.具体的には,ある大学の「情報」の授業を利用して,学生らにジレンマを利用した情報倫理教育の授業を行った.ここで利用したジレンマは,人間としての善悪と,法令への合法・違法にかんする判断が独立であることから生じるジレンマである.また,学生とディスカッションも行い,ジレンマをきっかけとして情報環境における行為の適切性について学び続けていかなければならないということを理解させることができた.授業評価として,授業の実施前後にアンケート調査を行ったところ,情報倫理の学習についての意欲が向上した.この実証授業において,情報倫理教育の重要性を示すこともできた.
 


(2014年6月4日受付)
取得年月日:2014年3月
学位種別:博士(システムズマネジメント)
大学:筑波大学



推薦文
:(コンピュータと教育研究会)


辰己氏は,長年にわたり情報倫理教育を研究し,この分野における我が国のトップランナーである.昨今,インターネット環境におけるいじめや犯罪など,情報倫理教育が脚光を浴びているが,情報倫理教育の現状や,具体的にどのような対応をするべきかを考える際に,きわめて有用なサーベイ論文である.


著者からの一言


我が国の情報倫理教育は,「これをするな」という禁止事項の教育ばかりで,情報活用能力の教育は,アプリ操作方法の教育ばかりでした.持続的な能力を身に付けるための学び方と,そのための教え方は,他にもあるかもしれませんが,本研究では「学び続けることの大切さ」を明らかにできたと思っています.