松木 萌 (正会員) ソフトバンク株式会社 |
キーワード
介護 | データマイニング | 行動認識 |
[背景]介護分野におけるコンピュータを用いた行動分析の需要の高まり
[問題]介護業務データの収集と分析に関する実用的な知見の不足
[貢献]データ分析により介護当事者に役立つ技術を提案
スマートフォンや環境に取り付け可能なセンサの普及に伴い,人の行動や環境状況(コンテキスト)を収集することが可能となりつつある.収集されたデータを機械学習などの技術で分析し,当事者が利用できるシステムやアプリケーションとして提供することで,人々の生活がより便利になることが期待できる.人手が不足する介護分野においても,高齢者の行動を分析することによる遠隔見守りシステムの実現や介護士の行動を分析することによる介護記録の自動化アプリケーション実現といった技術応用が期待できる.しかし,当事者ではない技術者はどのようなデータを収集し,どのような仮説でデータを分析して,どのような形態で介護分野にフィードバックするのかを決定づけることは容易ではなく,介護当事者の意見を取り込んだ実用的な課題の発見とその解決法の提案が要求される.
本博士論文では,介護分野の課題解決を目的として,その初期の取り組みとしてこれまでにないデータ分析方法や行動認識手法に取り組んだ研究を3つ紹介している.
(1)介護施設入居前データを用いたデータマイニング
介護施設において発生したトラブルの原因を分析する際,これまでは現場での業務記録や事故レポートの分析による課題抽出が行われてきたが,実際にトラブルが発生してからの回顧的な分析になりトラブル発生の予見は困難であった.本研究は,新たに介護入居前の入居希望者のコールセンター記録を用いて,実際に入居する前に今後起こり得る事象を予期するための当事者向けの知見の抽出に取り組んだ.アンサンブル学習を用いた重要項目抽出を行うことで介護が必要な理由や入居決定の理由などの知見を10件ほど提示することができた.
(2)介護施設におけるセンサデータを用いた高齢者将来行動の分析
介護者の見守り負担軽減のため,高齢者のベッド上にセンサを取り付け,現在の行動をモニタリングすることが一般的になりつつある.本研究では,センサ情報を現在の行動の認識ではなく,半日後の高齢者の活動の予測のために使用することを提案している.具体的には,ベッド上の高齢者の動きデータと介護日誌データを利用する.実際の介護施設で1カ月間に及ぶ実験を行った結果,一部の高齢者に対して運動の有無が入眠時間に影響することを示し,介護士の業務優先度決定における有用な知見として示すことができた.
(3)センサ行動認識における未知行動認識手法の提案
スマートフォンなどに内蔵されている加速度センサの情報から,それを身につけているユーザの行動認識技術には教師あり学習を用いることが一般的である.しかし介護記録の自動化や高齢者の見守りとしてそれを応用するためにはすべての行動クラスに対する学習データを収集する必要があり,介護者の負担が大きい.そこで行動を表現する意味ベクトルを仲介することで追加の手間をかけずに学習データに存在しない未知の行動クラスを推定するZero-shot学習法を提案した.その結果,追加のラベリングを要求する既存手法とほぼ同等の精度を達成し,全種のデータを収集する必要のない実用的なセンサ行動認識の枠組みを示した.
今後介護分野に向けた研究を進める研究者や開発者にとって有用な知見を示したこと,介護士の負担軽減のための実用的な行動認識手法を提案したことが本論文の貢献である.
[貢献]データ分析により介護当事者に役立つ技術を提案
スマートフォンや環境に取り付け可能なセンサの普及に伴い,人の行動や環境状況(コンテキスト)を収集することが可能となりつつある.収集されたデータを機械学習などの技術で分析し,当事者が利用できるシステムやアプリケーションとして提供することで,人々の生活がより便利になることが期待できる.人手が不足する介護分野においても,高齢者の行動を分析することによる遠隔見守りシステムの実現や介護士の行動を分析することによる介護記録の自動化アプリケーション実現といった技術応用が期待できる.しかし,当事者ではない技術者はどのようなデータを収集し,どのような仮説でデータを分析して,どのような形態で介護分野にフィードバックするのかを決定づけることは容易ではなく,介護当事者の意見を取り込んだ実用的な課題の発見とその解決法の提案が要求される.
本博士論文では,介護分野の課題解決を目的として,その初期の取り組みとしてこれまでにないデータ分析方法や行動認識手法に取り組んだ研究を3つ紹介している.
(1)介護施設入居前データを用いたデータマイニング
介護施設において発生したトラブルの原因を分析する際,これまでは現場での業務記録や事故レポートの分析による課題抽出が行われてきたが,実際にトラブルが発生してからの回顧的な分析になりトラブル発生の予見は困難であった.本研究は,新たに介護入居前の入居希望者のコールセンター記録を用いて,実際に入居する前に今後起こり得る事象を予期するための当事者向けの知見の抽出に取り組んだ.アンサンブル学習を用いた重要項目抽出を行うことで介護が必要な理由や入居決定の理由などの知見を10件ほど提示することができた.
(2)介護施設におけるセンサデータを用いた高齢者将来行動の分析
介護者の見守り負担軽減のため,高齢者のベッド上にセンサを取り付け,現在の行動をモニタリングすることが一般的になりつつある.本研究では,センサ情報を現在の行動の認識ではなく,半日後の高齢者の活動の予測のために使用することを提案している.具体的には,ベッド上の高齢者の動きデータと介護日誌データを利用する.実際の介護施設で1カ月間に及ぶ実験を行った結果,一部の高齢者に対して運動の有無が入眠時間に影響することを示し,介護士の業務優先度決定における有用な知見として示すことができた.
(3)センサ行動認識における未知行動認識手法の提案
スマートフォンなどに内蔵されている加速度センサの情報から,それを身につけているユーザの行動認識技術には教師あり学習を用いることが一般的である.しかし介護記録の自動化や高齢者の見守りとしてそれを応用するためにはすべての行動クラスに対する学習データを収集する必要があり,介護者の負担が大きい.そこで行動を表現する意味ベクトルを仲介することで追加の手間をかけずに学習データに存在しない未知の行動クラスを推定するZero-shot学習法を提案した.その結果,追加のラベリングを要求する既存手法とほぼ同等の精度を達成し,全種のデータを収集する必要のない実用的なセンサ行動認識の枠組みを示した.
今後介護分野に向けた研究を進める研究者や開発者にとって有用な知見を示したこと,介護士の負担軽減のための実用的な行動認識手法を提案したことが本論文の貢献である.

(2020年5月31日受付)