IoTセンサデータの地産地消基盤に関する研究

 
 

中村 優吾 
(正会員)
奈良先端科学技術大学院大学 特任助教
 
キーワード
Internet of Things エッジコンピューティング コンテキスト認識

[背景]IoTの普及により,きめ細かい生活支援が可能に

[問題]小さなモノのIoT化や実時間データ処理はコストがかかる
[貢献]IoTデータの収集と処理を効率化する基盤技術の実現


 近年,Internet of Things技術の急速な発展に伴い,ユビキタスコンピューティング環境の実現が現実的なものとなりつつあります.しかしながら,身の回りのあらゆるモノがスマート化し,相互に連携しながら,あらゆる場所で即時かつ安全に人々の生活や地域社会を豊かにする真のユビキタスコンピューティング環境の実現には至っていません.このような,真のユビキタス環境を実現するには,(1)実環境で利用できるIoTデバイスの選択肢が少なく,センシング対象が限られてしまう,(2)IoTセンサデータのタイムリーな処理・分析・応用ができていない,という2つの問題点を解決する必要があります.

 私は博士後期課程で,地域におけるIoTセンサデータの生産を促進するとともに,収集されたIoTセンサデータを地域に存在する計算資源を活用して即時に処理・分析・応用する「地産地消」を基本コンセプトとして,IoTセンサデータの地産地消基盤の実現を目指す研究に取り組みました.具体的には,前述の2つの問題点を解決するために,A: 実用可能なIoTデバイス開発とセンサデータ収集の簡略化,B: エッジIoTデバイス群による弾力性のあるデータ処理の実現という2つの研究課題に取り組みました.

 研究課題Aでは,8つのセンサ(加速度,ジャイロ,磁気,光,UV,温度,湿度,圧力),BLE通信モジュール,フラッシュメモリ,バッテリー,充電回路を搭載した小型マルチセンサボード,データ収集用のソフトウェア,自由に拡張可能な3Dプリンタ用のケースデータによって,モノのIoTデバイス化とデータ収集のプロセスの簡略化を実現するSenStickプラットフォームの設計・開発を行いました.そして,ベルトや箸のIoTデバイス化といったケーススタディを通じてSenStickプラットフォームを評価し,SenStickを活用することで開発プロセスが簡略化され,試作されたIoTデバイスを用いて,長時間の行動データ収集および高精度(F値0.95)の日常行動認識を実現できることを確認しました.

 研究課題Bでは,地域に存在するIoTデバイス群をセンサデータプロバイダ,計算資源プロバイダ,サービスコンシューマとして抽象化し,それらのリソースをセンサデータ処理サービスの需要に応じて調整・分配しながら,1つのサービス系として弾力性のあるデータ処理を実現するIFoTプラットフォームを設計し,そのプロトタイプを開発しました.実機とシミュレーション(エリア:2km×2km,ノード数:4,000台)の評価実験によって,IFoTが250msの遅延要求を満たすタイムリーな処理を実現可能であるとともに,サービスの需要が増加した場合でも,近隣のエッジIoTデバイスを活用したスケールアウトによってQoSを維持できることを確認しました.

 今後は,大目標である「IoTセンサデータ地産地消基盤」の実現に向けて,センシングの多様性を向上させるSenStickと,コンピューティングの柔軟性を向上させるIFoTをシームレスに統合し,誰もが自由なアイディアで気軽に思いついたIoTシステムを構築し,実環境で展開できるような環境を整えていきたいと考えています.


 

 
 https://www.yugontech.info/

(2020年6月4日受付)
 
取得年月日:2020年3月
学位種別:博士(工学)
大学:奈良先端科学技術大学院大学



推薦文
:(ユビキタスコンピューティングシステム研究会)


Society5.0の実現には,IoT機器の選択肢拡大,IoTデータの適時な処理・分析・応用を支援する基盤が不可欠である.本論文では,さまざまなモノのIoT化とデータ収集プロセスの簡略化を支援するSenStick基盤とIoT機器群のリソースを活用してタイムリーなデータ処理を実現するIFoT基盤を提案しており,大きな実用性・将来性を持つ研究として推薦する.


研究生活


私は,今から約7年前に,函館高専で研究というものに出会いました.幸いにも,これまで素晴らしい先生方や仲間に恵まれたおかげで,興味関心の赴くままに,充実した研究生活を送ることができています.今後は,教員として,学生達と協力しながらワクワクする研究を進めるとともに,情報科学分野を盛り上げていきたいと思います.これから博士課程に進む人や博士進学を考えている人は,ぜひとも,自身の研究室や研究会をはじめとしたコミュニティへの感謝を忘れずに,「好奇心」と「遊び心」を持って,個性の溢れる刺激的な研究生活を送ってほしいです.最後に,研究者としての道に進むきっかけをくださった,藤原孝洋先生(函館高専元教授),安本慶一先生(NAIST教授),荒川豊先生(九州大学教授),研究活動や学会等を通じてお世話になった皆様に,この場を借りてお礼申し上げます.