Release-Aware and Prioritized Bug-Fixing Task Assignment Optimization

(邦訳:リリースと優先順位を考慮した不具合修正タスク割当の最適化)
 
柏 祐太郎 (正会員)
九州大学大学院システム情報科学研究院情報知能工学部門 特任助教
 
キーワード
バグトリアージ ソフトウェアの不具合修正 ソフトウェアリリース

[背景]ソフトウェア開発では日々大量の不具合が報告される

[問題]プロジェクトの人的資源と開発期間に限りがある
[貢献]リリースまでに多くの不具合修正が可能な割当を実現


 ソフトウェアはビジネスにおける優位性を獲得する上で重要な役割を担っている.近年ではユーザの獲得競争が激しく,ユーザが求める機能や品質を持つソフトウェアをより早くユーザに届けることが重要である.現代のソフトウェア開発では,リリースサイクル(納期の間隔)を一定の短期間(数カ月や数週間)に設定して,ユーザに新機能や不具合修正プログラムを提供している.一方,さまざまな機能や他のシステムとの連携を実現するために製品が大規模化しており,それに比例してソフトウェアで発生する不具合数も増加している.つまり,開発者は,年々短縮化している開発期間で,多くの不具合を修正しなければならない状況に置かれている.

 しかし,実際は,短期間で膨大な数の不具合をすべて修正することは難しい.そのため,プロジェクトの管理者が不具合修正に対して優先順位を付けている.管理者はプロジェクトの人的リソースやリリースまでの時間を鑑みて,どの不具合を次のリリースで修正すべきかを決定し,適任と思われる開発者に不具合修正の依頼を行っている.これらの優先度付けから担当者決定を行うには,プロジェクトの管理者が不具合報告の内容を精査する必要があり,多くの時間を消費していると言われている 1)

 近年ではこれらの負担を軽減するために,優先度付けおよびタスク割当ての自動化を目的とした多くの手法が提案されている 1),2).しかしながら,従来のタスク割当方法の多くは特定の開発者に不具合を集中させる傾向があると報告されている 2).たとえ経験豊富な開発者であっても,リリースまでに修正できる不具合数には限界がある.そのため,特定の開発者へのタスク集中はプロジェクト全体として,次のリリース日までに修正できる不具合の数を減少させる恐れがある.

 本研究では,特定の開発者への負荷を緩和し,リリース日までにより多くの不具合を修正することを目的として,自動割当手法RAPTOR(Release-Aware and Prioritized Task-assignment Optimization Framework)を提案している.RAPTORでは機械学習を用いて,不具合の優先度や,各開発者が修正できる確率,修正に必要なコスト(時間)を算出している.そして,開発者に割り当てるタスク数に制約を課し,この制約を満たす,より高い優先度の不具合とより優秀な開発者の組合せを探索する.既存研究は不具合に対して最も適任の開発者を割り当てているのに対して,提案手法はプロジェクト全体で適任の開発者に割り当てている点に特徴がある.オープンソースソフトウェアプロジェクトの開発データを利用した評価実験の結果,従来手法と比べて以下の点が明らかになった.
 
1)一部の開発者へのタスク集中を緩和
2)多くの高優先度の不具合をリリース日までに修正可能
3)プロジェクト全体で不具合修正作業に要した時間を削減

 

(2020年5月28日受付)
 
取得年月日:2020年3月
学位種別:博士(工学)
大学:和歌山大学



推薦文
:(ソフトウェア工学研究会)


本論文では,特定の開発者により多くの不具合を割り当てる従来手法に対して,限られた時間や人的リソースを最大限活用し,優先度の高いタスクをより多く完了できるバグトリアージ手法を提案している.著者の実務経験に基づくことで,現場での適用を見据えた現実的な手法となっており,産業界への貢献が大きく期待できる.


研究生活


大学院修士課程卒業後は,2年間システムエンジニアの職に従事していました.しかし,研究に未練があったことから日本学術振興会 特別研究員(DC1)に応募し,採択を期に退職をしました.

博士課程では,システムエンジニアとして働いていた際に,多くの人がリリースに苦労をしていたことから,どのようにすれば安全なリリースを迎えることをできるかを研究していました.研究を進める中で,学術界や産業界との共同研究や,カナダ・モントリオールへの研究留学など,さまざまな機会をいただき,充実した研究生活を送ることができました.職を辞してまで博士課程へ進学するかを決める際には非常に苦悩しましたが,今ではこの決断は間違っていなかったと感じています.指導教員の大平雅雄准教授をはじめ,背中を押していただいた皆様に感謝しています.