仮想計算機における性能プロファイリングシステムに関する研究

 
山本 昌生
(株)富士通研究所サービスビジネス開発運用・ユニット シニアリサーチャー
 
キーワード
性能プロファイリングシステム 性能プロファイリングシステム
の分散化
仮想計算機(Virtual Machine)

[背景]VMに適した性能プロファイリングシステムの必要性の増加

[問題]VMにおける継続的な性能プロファイリングシステムがない
[貢献]基盤としてVMを利用するクラウドの円滑な運用支援


 計算機は,企業などの組織による業務用途から個人用途まで幅広く利用されている.このため,現代では,経済基盤や社会基盤として,また個人の日常生活にとっても,計算機が必要不可欠となっている.計算機の利用形態として,現在は,ネットワーク上に分散した計算機リソースを必要なときに必要な分だけ利用するクラウドコンピューティングまたはクラウドと呼ばれる集中処理が中心となっている.具体的には,パソコンやスマートフォン,タブレットなどの端末から,インターネットなどのネットワークを経由して,計算機のサービスやデータを利用する.クラウド利用者が利用する計算機は,クラウド上の仮想計算機(VM:Virtual Machine)となる.VMは,ソフトウェア上で物理計算機を模して構築される計算機である.これにより,物理的な1台の計算機上に複数の計算機環境を動作させることが可能となる.

 計算機サービスの保守性向上や円滑な運用を支えるためのシステムの1つとして,性能プロファイリングシステムがある.保守性とは,発生した障害の修復のしやすさで,障害発生から復旧するまでの平均時間(MTTR:Mean Time To Recovery)が指標値として用いられる.性能プロファイリングシステムは,計算機の性能低下異常を検出しその要因となっている処理を特定することにより,MTTRを短くし,保守性の向上を支える.具体的には,プログラムの動作情報のデータを収集しプログラムの関数単位などで頻度集計を行う.クラウドが普及してきた現在では,クラウドが利用しているVMに適した性能プロファイリングシステムが必要である.さらに,クラウドで性能異常を検出するには,VMを利用した性能プロファイリングシステムが行うデータ収集,データ格納,および解析の一連の処理を連続して継続的に実行する必要がある.しかし,VMにおける性能プロファイリングシステムの既存手法には,データ収集オーバヘッドが高い問題や測定精度が低い問題がある.さらに,VM環境における継続的な性能プロファイリングシステムの既存手法がない.

 本研究では,先ず,VMモニタと呼ばれる物理計算機を模してVMを構築し管理するソフトウェアのみでデータ収集を行う性能プロファイリングシステムを提案した.これにより,データ収集オーバヘッドを削減できるようになった.次に,物理/仮想CPU数の違いを考慮した測定精度の向上手法を提案した.さらに,継続的な性能プロファイリングを可能にするシステムの分散化とデータ収集停止時間を短縮する手法,および分散化した性能プロファイリングシステムの解析処理時間の短縮手法を提案した.これらにより,VMにおける継続的な性能プロファイリングシステムの実現手法を確立した.

 本研究で確立した性能プロファイリングシステムは,クラウドの円滑な運用を支えることを通し,現在の情報社会(Society 4.0)およびデータを活用して経済発展と社会的課題の解決を両立するこれからの社会(Society 5.0)における円滑な社会活動を支えるシステムとなることを期待できる.

 

(2020年5月29日受付)
 
取得年月日:2019年9月
学位種別:博士(工学)
大学:岡山大学



推薦文
:(システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)


ソフトウェア動作は複雑であり,その動作を性能プロファイリングにより把握することで保守性を向上できる.本論文は,仮想計算機における性能プロファイリング技術として,低オーバヘッドかつ把握精度が高い方式を示し,さらにクラウドコンピューティング環境における継続的な性能プロファイリング方式を明らかにしている. 


研究生活


私は社会人学生として博士課程に入学しました. 博士課程を終えて感じるメリットとして「①研究開発を加速させる力」と「②開発技術を広める力」を磨く機会を得られたことがあります.博士課程では,ユニークな研究を科学的に行う力と成果を論文にまとめる力が重要になります.前者の力が①に,後者の力が②に繋がると思います.特に後者には他の研究者を客観的に納得させるための論理性,科学性が必要となり苦労しました.同時にこのプロセスは博士課程の重要な価値になると感じました.社会人博士の場合は,自分の過去を棚卸ししてリフレッシュし再出発する機会にもなると思います.

本研究を進めるにあたり,ご指導とご鞭撻をいただきました谷口秀夫教授,名古屋彰教授,山内利宏准教授に心よりお礼申し上げます.また,博士課程入学の機会を与えていただきました(株)富士通研究所に感謝いたします.これから博士号取得される皆さまもぜひ最後まで頑張ってください.