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大西 裕也 (株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 研究員 |
キーワード
ビデオ会議 | ロボット | ソーシャルテレプレゼンス | 存在感 |
[背景]ビデオ会議はソーシャルテレプレゼンスの強さが不十分
[問題]遠隔地側の空間とユーザ側の空間の分離
[貢献]空間の連続性を示す遠隔会議システムによる存在感の伝達
ビデオ会議はソーシャルテレプレゼンス(遠隔地にいる相手とあたかも同じ空間にいるかのような感覚になることができる現象)の強さが不十分であり,完全に対面会議を代替するには至っていない.その原因として,遠隔地側の空間とユーザ側の空間の境界となっているディスプレイが2つの空間を分離させていることが考えられる.本研究では,ディスプレイに映し出されている遠隔地側の空間を「リモート空間」,ユーザ側の空間を「ローカル空間」,ディスプレイを「境界面」,リモート空間とローカル空間に跨る物体が境界面を貫通して繋がっているかのように提示することを「空間の連続性を示す」と定義し,どのように空間の連続性の提示することがソーシャルテレプレゼンスの強化に有効であるのかを調査した.空間の連続性を示すデバイスとして,参加者の映像の一部をロボット化し,参加者の映像とロボットが境界面を貫通して繋がっているように見せる遠隔会議システムを開発し,以下の3つの内容に取り組んだ.
1つ目は,リモート空間にいる会議参加者の身体の一部をロボット化することによる効果を調査した内容である.ロボットの設置位置の違いがもたらす効果についての実験と,デバイスの有効性を確認するための比較実験を行い,ロボットによる身体拡張によって従来のビデオ会議よりソーシャルテレプレゼンスがより強まること示した.
2つ目は,境界面を貫通する物体の形状の違いがソーシャルテレプレゼンスに与える影響を調査した内容である.固有の形状を持つ物体(身体や指示棒)と固有の形状を持たない物体(影)を比較する実験を行った.固有の形状を有するものであれば身体以外の物体で境界面を貫通させることによっても同様の効果が得られること,境界面を貫通するという共通点を持っていても固有の形状を持たない物体の場合は効果がないことが分かった.
3つ目は,複数ディスプレイを組み合わせて境界面を変形させたり,境界面を移動させて貫通する物体が境界面に干渉する度合いを変化させたりすることによって,境界面に干渉する物体や身体の効果を調査した内容である.境界面を変形・移動させることによってソーシャルテレプレゼンスの強弱や方向(どちらの空間にいる感覚を与えるのか)が変化することを明らかにし,ビデオ会議の使用用途によってそれらをコントロールすることが可能であることを示した.
以上の成果により,空間の連続性を示すことでソーシャルテレプレゼンスを強化することが明らかとなり,遠隔地にいる会話相手の存在感を効果的に伝達するビデオ会議システムの設計指針を示した.
[貢献]空間の連続性を示す遠隔会議システムによる存在感の伝達
ビデオ会議はソーシャルテレプレゼンス(遠隔地にいる相手とあたかも同じ空間にいるかのような感覚になることができる現象)の強さが不十分であり,完全に対面会議を代替するには至っていない.その原因として,遠隔地側の空間とユーザ側の空間の境界となっているディスプレイが2つの空間を分離させていることが考えられる.本研究では,ディスプレイに映し出されている遠隔地側の空間を「リモート空間」,ユーザ側の空間を「ローカル空間」,ディスプレイを「境界面」,リモート空間とローカル空間に跨る物体が境界面を貫通して繋がっているかのように提示することを「空間の連続性を示す」と定義し,どのように空間の連続性の提示することがソーシャルテレプレゼンスの強化に有効であるのかを調査した.空間の連続性を示すデバイスとして,参加者の映像の一部をロボット化し,参加者の映像とロボットが境界面を貫通して繋がっているように見せる遠隔会議システムを開発し,以下の3つの内容に取り組んだ.
1つ目は,リモート空間にいる会議参加者の身体の一部をロボット化することによる効果を調査した内容である.ロボットの設置位置の違いがもたらす効果についての実験と,デバイスの有効性を確認するための比較実験を行い,ロボットによる身体拡張によって従来のビデオ会議よりソーシャルテレプレゼンスがより強まること示した.
2つ目は,境界面を貫通する物体の形状の違いがソーシャルテレプレゼンスに与える影響を調査した内容である.固有の形状を持つ物体(身体や指示棒)と固有の形状を持たない物体(影)を比較する実験を行った.固有の形状を有するものであれば身体以外の物体で境界面を貫通させることによっても同様の効果が得られること,境界面を貫通するという共通点を持っていても固有の形状を持たない物体の場合は効果がないことが分かった.
3つ目は,複数ディスプレイを組み合わせて境界面を変形させたり,境界面を移動させて貫通する物体が境界面に干渉する度合いを変化させたりすることによって,境界面に干渉する物体や身体の効果を調査した内容である.境界面を変形・移動させることによってソーシャルテレプレゼンスの強弱や方向(どちらの空間にいる感覚を与えるのか)が変化することを明らかにし,ビデオ会議の使用用途によってそれらをコントロールすることが可能であることを示した.
以上の成果により,空間の連続性を示すことでソーシャルテレプレゼンスを強化することが明らかとなり,遠隔地にいる会話相手の存在感を効果的に伝達するビデオ会議システムの設計指針を示した.

(2020年5月29日受付)