伝統芸道に親しむことを目指したコンピュータアプリケーション

 


横窪 安奈
青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科 助教
 
キーワード
伝統芸道 技能支援 HCI エンタテインメントコンピューティング

[背景]伝統芸道の振興および普及活動の強化

[問題]若年層の伝統芸道への敬遠意識による新規参入者の減少
[貢献]伝統芸道への導入障壁を低減するための導入アプリケーション設計指針の構築


 日本の伝統芸道の代表である茶道・華道・香道は,長い歴史の中で脈々と受け継がれてきたものであり,現代においても普遍的な価値がある文化である.伝統と様式美に裏付けられた伝統芸道は,美的で魅力的である一方,初心者には難解で親しみにくい印象がある.博士論文では,伝統芸道未経験者や初心者らが伝統芸道に親しむための効果的な手法を明らかにし,コンピュータテクノロジーを用いて伝統芸道への導入を促進するためのコンピュータアプリケーションの構築を目的とする.伝統芸道への導入の裾野を広げるために,コンピュータテクノロジーを用いた以下3つのアプローチについて検討した.

1.  第一のアプローチは,メディアアート性を用いて伝統芸道への興味を創出する方法である.茶道を題材として,メディアアートの手法を用いて茶道未経験者や初心者への導入アプリーケーションを検討した.

2.  第二のアプローチは,Virtual Reality(VR)性を用いて伝統芸道を手軽に体験可能にする方法である.華道を題材として,時や場所に制限が無い新しい体験環境として,シミュレーションの手法を用いて華道未経験者や初心者への導入アプリケーションを検討した.また,VR・AR・Tangible User Interface・Physical Proxy Interfaceの手法を用いて華道初心者から経験者への導入アプリケーションを検討した.

3.  第三のアプローチは,ゲーム性を用いて伝統芸道への心理的障壁を軽減する方法である.香道を題材として,ゲーミフィケーションの手法を用いて香道未経験者や初心者への導入アプリケーションを検討した.

 本論文では,上述した3つのアプローチにより実施した以下4つのコンピュータアプリケーションの構築・開発及び評価について述べた.
  • “幻庵” :茶事周期への客の同期を図ることで,茶事への協調を促すことを目的としたアンビエントメディア
  • “CADo”:ユーザの手元にある花材を用いて,誰でも手軽にいけばな体験が可能になることを目的としたいけばな支援システ ム
  • “TracKenzan”:ディジタル環境下で繰り返しいけばな練習を行うことを目的としたいけばな練習システム
  • “eGenjiko”:香道の遊び方の1つである「源氏香」の体験が可能になることを目的とした香道体験システム
 上述した4つの提案システムを通じ,伝統芸道の導入への裾野を広げるために適用した「メディアアート性」・「VR性」・「ゲーム性」の有用性及び伝統芸道に親しみやすくするための導入アプリケーションの設計指針を示した.また,伝統芸道の習熟度として考慮すべき4段階の技能習熟度の分類モデルを提示した.


 
 

 
 動画URL(YouTubeチャンネル用):
 https://www.youtube.com/watch?v=PGHawiawxpo 
 https://www.youtube.com/watch?v=9MsDCy96LRw

(2020年6月4日受付)
 
取得年月日:2020年3月
学位種別:博士(理学)
大学:お茶の水女子大学



推薦文
:(エンタテインメントコンピューティング研究会)


伝統と様式美に裏付けられ伝統芸道の代表である茶道・華道・香道は,美的で魅力的である一方,初心者には難解で親しみにくい.本論文では,CG画面で生花を練習するシステム,香道の「源氏香」を体験するゲームなど,初心者らが伝統芸道に親しむためのコンピュータアプリケーションを開発し,設計指針を示した.


研究生活


社会人ドクターとして仕事と研究の二足の草鞋で研究活動を行ってきました.仕事と研究の両立が難しく,何度も挫折しそうになりましたが,親身にご指導して頂いた椎尾一郎先生をはじめ,社会人ドクターに理解を示して研究生活を支えて下さった職場の上司・同僚,研究室のメンバに心から感謝申し上げます.

博士前期過程から一貫して,伝統芸道に軸足を置いて研究を行ってきました.人が生活する上で必要な衣食住とは異なり,伝統芸道などの習い事は贅沢なものとして受け止められることが多いです.しかし,伝統芸道がもたらす体験により,より豊かな生活や精神の安定に繋がり,仕事や勉学,遊びにより一層励めるようになるのではないでしょうか.伝統芸道の世界に一歩踏み出すきっかけに,コンピュータテクノロジーが活用できれば幸いです.

最後になりますが,今後,社会人ドクターや女性の博士号取得者が増加していくことを切に願うとともに,私自身も教育や研究に携わり,情報科学分野に貢献していく所存です.