身体動作特徴を考慮したインタラクティブシステムに関する研究

 
出田 怜
mplusplus Co., Ltd.で衣装デザイナーとして勤務
 
キーワード
インタラクション 動作認識 システムデザイン

[背景]コンピュータの進歩によって,場所時間問わずコンピュータを使用することが可能

[問題]身体動作特徴を考慮してシステムをデザインすることが重要
[貢献]高度なデータ処理で抽出した身体動作特徴を用い,さまざまなインタラクティブシステムを設計


 スマートフォンや腕時計型デバイスなどモバイルデバイスの普及により,人々は常に高性能なコンピュータを持ち歩くことができ,時間や場所を問わずコンピュータを利用できるようになった.その利用形態は日常生活での利用からエンタテイメントでの利用など多岐にわたり,モバイルデバイスの普及によって人とコンピュータがインタラクションする機会は急激に増加した.また,ウェアラブルコンピュータの台頭によって,さまざまなセンシングデバイスが開発され,腕や足など情報の欲しい部分にセンサを取り付け,スマートフォンなどと連携させることによって,身体部位の詳細な動作データを常時取得することも可能になってきた.このような環境が確立されつつある世界ではコンピュータはセンシングデバイスによってユーザの身体動作や状態を把握できるようになり,ユーザが操作せずともコンピュータ側からユーザの動作・状態に合わせてサービスを提供するユーザにとって受動的なインタラクションが数多く提案されている.

 このようなインタラクションはセンシングデバイスの登場によってうまれた新しいインタラクションの形態であり,今後,モバイルコンピュータやセンシングデバイスの進歩に伴って,ユーザの身体動作特徴を考慮してシステムを設計することがさらに重要になってくると考えられる.ユーザにとってどのようなシステムが優れているのかといった議論は活発に行われているが,身体動作特徴を用いたインタラクションについては実現可能性や精度に関する議論にとどまっており,システムの設計原則については不明瞭な部分が多い.したがって,本研究では,センシングデバイスによって取得できる身体動作特徴を考慮したインタラクティブシステムの設計原則の確立を目指して,システムに必要であると考えられる下記の3つの要素を列挙し,それぞれについて議論した.

<ユーザにインタラクションを意識させないインタラクティブシステムの構築>
 モバイル端末の認証システムに着目し,携帯端末のポケットからの取り出し動作による画面ロック解除手法を提案し,従来の認証システムのような認証のための操作や本人確認のための情報の登録を行わずに,画面ロックの解除を行うことのできる認証システムおよび学習方法を示した.評価実験より,従来の認証システムと比較して,性能は劣るものの,ポケットからの取り出し動作で画面ロック解除できることを確認し,ユーザにインタラクションを意識させないインタラクティブシステムの可能性を示した.

<スムーズなインタラクションの実現>
 ユーザの動作を用いたユーザインタフェースで問題とされている出力の遅延を考慮した動作の予測手法を提案し,ユーザビリティの向上に貢献した.

<実践データの分析に基づくプロダクトの改良>
 大規模かつ長期的に使用されるダンスパフォーマンスに特化した電飾服の制作におけるダンス中の身体動作特徴を考慮したデザインガイドラインを提案し,実際にデザインガイドラインに基づいて電飾服を制作し,大規模なライブエンタテインメントで運用を行った.提案したデザインガイドラインに基づいて電飾服を制作することで,電飾の故障数は減少し,運用に必要なスタッフの人数を抑えることができたことから,実践的な環境での使用データに基づいてプロダクトをアップデートさせることの重要性を示した.


 
 
(2020年5月29日受付)
 
取得年月日:2020年3月
学位種別:博士(工学)
大学:神戸大学大学院



推薦文
:(エンタテインメントコンピューティング研究会)


本論文は,身体動作特徴を考慮したインタラクティブシステムの設計原則の確立を目指した複数の研究をまとめたものである.著者の実際のコンサートにおける電飾衣装製作経験に基づくガイドライン提起や,観客参加型演劇における動作認識技術の提案と実運用など,エンタテインメントシステム構築に対する深い議論がある.


研究生活


親が服飾関係の仕事をしており,その影響を受けて,自分も趣味で服作りをしていました.私の通っていた大学では通常4年生から研究室に配属されるのですが,そこで,ウェアラブルコンピューティングという分野を知り,自分の趣味を研究に活かせると思い,現在の研究テーマをスタートさせました.研究生活ではプログラミング,論文の執筆能力,英語などの自分の人生の糧となるスキルを身につけることができただけでなく,先生方や研究室の仲間と1つのことに対して,深く議論することができて,非常に有意義な時間を過ごすことができました.学位取得後も縁は切れることなく,共同研究や,お互いの専門を活かしてビジネスにつなげたりしています.もちろん,苦労したことも多く,特に金銭面ではジリ貧で我慢の連続したが,我慢に見合うだけの貴重な経験をさせてもらったと思っています.

博士になることで,その専門性を極めることができるだけでなく,社会的信頼度も非常に高くなり,大学などの教育機関だけでなく,企業,研究所などからも貴重な人材として,さまざまな分野で重宝され,活躍できる場が広がります.文章だけではなかなか感じ取ることは難しいかもしれませんが,研究生活に興味を持ち,博士を目指すきっかけになってくれれば幸いです.