中平 勝子 (正会員) 長岡技術科学大学 助教 |
キーワード
視行動計測 | 情報可視化 | 技能教育 |
[背景]情報技術を取り入れた技能教育の高度化
[問題]可視化技術と教育手法の融合による効果的な可視化手法の設計
[貢献]広く技能獲得への適用が可能
ピアノレッスンは,ピアニスト志望者向けの特別なレッスン,という印象がありますが,日本では,未成年のみならず成人の手習いとしての民間音楽教室のほか,保育者養成課程を持つ大学などでも広く行われています.その指導形態は,大きくグループレッスンと個人レッスンがあり,教育の位置付けがはっきりしている教育機関での指導法改善,学習動機が個性の差別化に依存する民間音楽教室における学習意欲の維持に対する工夫といった問題点が挙げられます.
こうした背景を受け,ピアノレッスンを技能教育として捉え,最終的には,広い意味での「技能継承」を情報技術によってより良く行う方法論を考えたい,というのがこの研究です.過去の研究では,技能継承は「人の背中を見て学ぶ」を基本にしており,情報技術の適用は少しでもその機会を増やすための教材を動画配信を含むe ラーニングを中心に行われてきました.しかし,行動センシングデータを簡便に行う機器が開発され,廉価で入手できるようになりました.それに伴い,学習者の行動センシングデータの可視化を技能教育への適用する研究が活発に行われています.
この研究では目に見える技能(表出される技能)と人の脳内に存在する暗黙的な技能(表出されない技能)を統合的に理解し,行動センシングデータを併用した技能獲得における学修成果の可視化手法の設計を行いました.学習者が重点的に行うべき練習の箇所を客観的に見つめやすくなり,特に成人を対象とする場合,「自分で技能改善できるところ」と「指導者に適切な指導を受けた方が良いところ」の切り分けが可能となる,という利点があります.
研究は,次の2項目を中心に行いました.
(1)表出化される技能を簡易に確認できるデバイスの改善とそれを用いた授業設計の提案・実践結果の分析
(2)表出化されない技能に対しては,情報知覚・認知過程を可視化するための測定対象パラメータの提案
(1)は,模倣対象となるコンテンツを開発し,その閲覧と観察記録をレポート課題として課し,練習風景の提出を行わせるためにICTが苦手な学生でもビデオ操作感覚で録画・再生可能な専用デバイスを導入しました.以上3要素を取り入れた授業設計および実践結果の分析を行い,学習者の練習の質向上,ひいては獲得技能の向上に寄与できることを示しました.
(2)は,学習者が楽譜を読み取る際の視行動が演奏技能と関係していると仮定しました.楽譜の読み方を定量表現するために,一度に楽譜情報を読み取れる「情報獲得範囲」と,情報獲得範囲から情報を読み取る「情報獲得時間」を有益な測定対象パラメータとして提案しました.また,これらのパラメータから学習者の演奏技能を推定できる可能性を示唆しました.
Society 5.0という言葉が注目される現在,行動センシングデータがもっと手軽に取れるようになると,COVID-19に伴って普及しつつあるオンラインレッスンは,より良いものになるかもしれません.そうした時代が来るかもしれないという思いとともに,日々研究を続けています.
[貢献]広く技能獲得への適用が可能
ピアノレッスンは,ピアニスト志望者向けの特別なレッスン,という印象がありますが,日本では,未成年のみならず成人の手習いとしての民間音楽教室のほか,保育者養成課程を持つ大学などでも広く行われています.その指導形態は,大きくグループレッスンと個人レッスンがあり,教育の位置付けがはっきりしている教育機関での指導法改善,学習動機が個性の差別化に依存する民間音楽教室における学習意欲の維持に対する工夫といった問題点が挙げられます.
こうした背景を受け,ピアノレッスンを技能教育として捉え,最終的には,広い意味での「技能継承」を情報技術によってより良く行う方法論を考えたい,というのがこの研究です.過去の研究では,技能継承は「人の背中を見て学ぶ」を基本にしており,情報技術の適用は少しでもその機会を増やすための教材を動画配信を含むe ラーニングを中心に行われてきました.しかし,行動センシングデータを簡便に行う機器が開発され,廉価で入手できるようになりました.それに伴い,学習者の行動センシングデータの可視化を技能教育への適用する研究が活発に行われています.
この研究では目に見える技能(表出される技能)と人の脳内に存在する暗黙的な技能(表出されない技能)を統合的に理解し,行動センシングデータを併用した技能獲得における学修成果の可視化手法の設計を行いました.学習者が重点的に行うべき練習の箇所を客観的に見つめやすくなり,特に成人を対象とする場合,「自分で技能改善できるところ」と「指導者に適切な指導を受けた方が良いところ」の切り分けが可能となる,という利点があります.
研究は,次の2項目を中心に行いました.
(1)表出化される技能を簡易に確認できるデバイスの改善とそれを用いた授業設計の提案・実践結果の分析
(2)表出化されない技能に対しては,情報知覚・認知過程を可視化するための測定対象パラメータの提案
(1)は,模倣対象となるコンテンツを開発し,その閲覧と観察記録をレポート課題として課し,練習風景の提出を行わせるためにICTが苦手な学生でもビデオ操作感覚で録画・再生可能な専用デバイスを導入しました.以上3要素を取り入れた授業設計および実践結果の分析を行い,学習者の練習の質向上,ひいては獲得技能の向上に寄与できることを示しました.
(2)は,学習者が楽譜を読み取る際の視行動が演奏技能と関係していると仮定しました.楽譜の読み方を定量表現するために,一度に楽譜情報を読み取れる「情報獲得範囲」と,情報獲得範囲から情報を読み取る「情報獲得時間」を有益な測定対象パラメータとして提案しました.また,これらのパラメータから学習者の演奏技能を推定できる可能性を示唆しました.
Society 5.0という言葉が注目される現在,行動センシングデータがもっと手軽に取れるようになると,COVID-19に伴って普及しつつあるオンラインレッスンは,より良いものになるかもしれません.そうした時代が来るかもしれないという思いとともに,日々研究を続けています.

(2020年5月30日受付)