情報基盤運用管理の効率化と改善に関する研究

 
小川 康一
埼玉大学情報メディア基盤センター 技師
 
キーワード
ネットワーク運用管理 移動ロボット 画像処理

[背景]ネットワーク運用管理では多種多様な端末のトラブルへの対応が必要

[問題]ネットワーク運用管理を行うためのコストカットと効率化
[貢献]監視装置と移動ロボットを利用したネットワーク運用管理コストの軽減


 スマートフォンやパソコンなどのIT機器は,今や日常生活において必要不可欠である.そして,IT機器の利用は,インターネットの接続が必須である.Googleで検索するとき,Facebookを見るとき,IT機器がインターネットに接続していることは絶対条件である.

 IT機器でインターネットを利用するためには,ネットワークの機能が正しく設定されて,かつ正しく動作している必要がある.日頃,利用者はネットワークの機能の存在を意識せずにインターネットを利用しているが,なんらかのトラブルや設定ミスなどが起きてしまうと,たちまちインターネットが利用できなくなる.利用できないものを利用できるようにするためには,技術的な知識やスキルが必要になるが,利用者は持ち合わせていない.そのため,利用者は,スマートフォンでインターネットが利用できない場合は,携帯電話会社に問い合わせたり,会社や学校で利用しているネットワークが利用できない場合は,ネットワークの管理部署に問い合わせたりする.

 本研究では,大学のネットワークの管理部署に寄せられる問合せのうち,ネットワークが利用できない場合の原因について調査を行った.原因の73%は,利用者のネットワーク機器の設定や利用方法に問題があることが分かった.よって,不具合の解消には,利用者のネットワーク機器の状態を調査し,不具合の原因を特定して解決する必要がある.しかし,利用者自身はネットワーク機器の調査を行うスキルを持っていないため,会社や学校のネットワークの管理部署が調査を行うことになる.管理部署は調査を行うだけのスキルを持っているが,利用者に応じて多種多様なネットワーク機器を調査するため,多くの時間を必要とする.よって,多数のスタッフが必要になるが,現実にはコスト面から難しい.管理部署は,組織全体のネットワーク管理など多くの業務があり,管理業務の効率化は重要な課題である.

 本研究では,ネットワーク機器の監視と利用者対応を,監視装置と移動ロボットに代行させることにより,管理業務の効率化を目指している.たとえば,建物内に設置されているネットワーク機器のLEDインジケータを監視装置で監視することや,移動ロボットが定期的に巡回してネットワーク機器の動作を確認することにより,管理業務を効率化できる.利用者のネットワークに問題がある場合には,監視装置の情報をもとに,利用者の部屋に移動ロボットが訪問する.移動ロボットに搭載したタブレットにより問題の解決を利用者自身に行ってもらう.タブレットの音声指示により,利用者にIT機器を操作してもらい,操作結果の画面をタブレットのカメラにより取得する.撮影した画像の分析結果から,IT機器の状況を把握し,問題解決のためのデータベースに問い合わせを行い,問題解決のための次の指示を決定する.

 本研究で開発した成果物は,情報収集や障害対応の自動化を実現するために,管理者の行動に着目している点に独創性がある.普段管理者がネットワーク障害に対応する際,ネットワーク機器のLEDインジケータの点灯状態を目視で確認し,状態を把握している.この行動を模倣するため,Webカメラと小型コンピュータを用いて監視装置を開発した.監視業務は,人手の代わりに移動ロボットを巡回させ,監視装置と組み合わせることにより自動化を実現した.利用者の障害対応支援は,対応にあたる管理者をモデルとし,各対応プロセスを自動化した.しかし,完全な自動化は現実的には困難なため,管理者が利用者に音声で助言を与え,利用者の障害対応を支援する方法とし,これを移動ロボットの機能拡張で実現した.具体的には,移動ロボットを移動可能な通信拠点として利用し,タッチパネル端末により利用者との対話を実現し,タブレットを活用することで障害物が多い環境でも柔軟な状態把握を可能にした.

 博士論文では,監視装置と移動ロボットを開発し,実際に大学で運用しているネットワーク機器を用いて実験を行い,監視業務の自動化やネットワーク障害対応の自動化の実現性を評価し,提案手法の有効性を示した.


 

 

(2019年6月3日受付)
 
取得年月日:2019年3月
学位種別:博士(工学)
大学:埼玉大学



推薦文
:(インターネットと運用技術研究会)


本博士論文は,大学のネットワークなどを含む情報基盤の管理運用に携わっている被推薦者が,実際に直面している問題の解決を目指した研究結果である.具体的には,人手が必要となる作業をロボット技術等で効率化している.この分野の研究としては異質であり,斬新なアイデアが提案されている.


研究生活


私は,普段は大学の情報センターの職員として大学のネットワークを管理する業務に従事しています.学生と切磋琢磨しながら研究を進めたいと思い,あえて大学院の博士後期課程に進学しました.

当初,研究テーマの方向性を決めるのに苦労しました.そのときに役立ったのは,別の大学院の修士課程の研究で行った「移動ロボットによるサービス開発」の経験です.この経験が,ネットワーク機器のLEDインジケータをカメラで撮影し,画像処理により把握する方法の提案や,移動ロボットを活用した監視情報の収集方法の提案に結実しました.やはり,常日頃から色々なことに興味を持って取り組む姿勢が大切であると確信しました.

私は,研究の進捗管理のひとつとして,情報処理学会の研究会での発表を活用しました.研究会の先生方からの貴重なアドバイスが得られ,その後の研究や論文執筆に役立ちました.

今後も,研究で得られた成果を実際の運用管理に適用できる形に実装し,「生きた研究」を目指して精進してまいりたいと思います.