フランチャイズ店舗向け電力ディスアグリゲーション方式に関する研究

 
尾崎 友哉
(株)日立製作所 研究開発グループ
 
キーワード
エネルギーマネジメント 電力見える化 データ分析

[背景]業務他部門(小売業,オフィスなど)における消費エネルギーの増加

[問題]低コストで導入可能なエネルギーマネジメントシステムが必要
[貢献]少ないセンサで個々の機器の消費電力を推定可能とし導入コストを低減


 近年の日本においては,製造業を中心に省エネルギー化が進むとともに,省エネルギー型製品が開発され,エネルギー消費は減少傾向となっている.しかしながら,家庭部門や,オフィスや店舗などの業務他部門のエネルギー消費,特に電気エネルギーの消費が増大してきている.特に,「フランチャイズチェーン店」,「百貨店,スーパー等卸・小売業」,「事務所ビル」が優先的に対策すべきターゲットになっている.そこで,本研究では,エネルギー消費原単位の大きさ,フランチャイズチェーンの組織形態を活かし本部を通じた温暖化対策の水平展開が可能であること,今後の増加見込み等を考慮し,フランチャイズチェーン型小規模店舗を対象とした省エネルギー化をターゲットとした.

 省エネルギー化にはエネルギーマネジメントシステム(EMS)による電力の見える化や機器の制御が有効である.しかしながら,従来のEMSでは,消費電力を計測したい機器ごとにセンサを取り付ける必要があるため,導入コストが高くなりがちで,小規模店舗では導入が進んでいない.特に,多数の店舗に導入する必要があるチェーンストアにとって,導入コストは大きな課題となっている.そこで,本研究では,導入の障壁を下げることに着目し,①多くの機器の状態を低コストでセンシングできるようにすること,②店舗の環境に依存する設定などはできるだけ少なくし導入作業をへらすこと,の2つの課題を解決することを目指した.

 上記課題を解決するため,分電盤の1カ所で計測した電力情報から個々の電気機器の状態や消費電力を推定する電力ディスアグリゲーション技術に注目した.電気機器は,それぞれ固有の消費電力パターンを有している.このような機器固有の特徴を分電盤の電力情報から抽出できれば,個々の機器の状態を推定することができ,必要なセンサの数を減らすことができる.本研究では,推定の精度,店舗環境への依存度,リアルタイム性などいった観点から検討した結果,特徴の抽出にウェーブレット変換を用いる手法を提案した.各機器の消費電流波形をウェーブレット変換すると,各機器の特徴は展開係数として現れる.そこで,分電盤で計測した電流波形をウェーブレット変換し,その展開係数に各機器をあらわす特徴があるか否かを判別し,特徴があった場合その機器が動作していると判断する.また,展開係数の大きさと,消費電力が比例関係にあることを利用して,各機器の消費電力を推定する.今回の研究では,提案手法を適用したEMSを開発し,コンビニエンスストアで実証実験を行い,その有効性を確認した.


 

(2019年5月30日受付)
 
取得年月日:2018年9月
学位種別:博士(情報学)
大学:静岡大学



推薦文
:(コンシューマ・デバイス&システム研究会)


本研究は,エネルギー消費低減の重要性が高いフランチャイズ店舗を対象に,分電盤の1カ所で計測した電流波形をウェーブレット変換し,その展開係数を用いて動作中機器と消費電力推定する電力ディスアグリゲーション方式の有効性を実証しており,本技術を活かしたエネルギーマネジメントシステム確立に大きく期待できる.


研究生活


大学を卒業して以来,しばらく学会活動と疎遠になっていましたが,CDS研究会の委員になったことをきっかけに多くの方から学位の取得を進められ,後押しをしていただきました.社会人学生として,会社の仕事,家庭,学位の取得と大変な面もありましたが,多くの方と交流し刺激を受けたことは大きな財産となりました.熱心にご指導いただいた大学の先生方,研究会の皆様,学位の取得をサポートしていただいた職場の方々,家族に感謝いたします.

エネルギーを効率良く利用することは,持続可能な社会を実現する上で,継続して取り組まなければならない重要な課題と考えます.今後も社会の役に立つ研究を進めていきたいと思います.