ネットワーク接続された組込みシステムの拡張性に関する研究

 
寺岡 秀敏
(株)日立製作所 研究開発グループ
 
キーワード
組込みシステム ネットワーク ソフトウェアアップデート

[背景]IoT普及などによるソフトウェア化の進展

[問題]ソフトウェア更新によるシステム拡張
[貢献]システム拡張を容易にするソフトウェア構成方法と更新方法提案


 通信技術の発展に伴い,われわれを取り囲む多くのモノは,ネットワークを接続されてさまざまな機能を実現するようになった.このようなモノの多くは組込みシステムとして実現され,その動作はソフトウェアによって定義される.このため,ソフトウェアを更新することで,製品が販売された後も機能改善やシステムの拡張が可能である.販売後もソフトウェア更新によるシステム拡張行うためには,対象となる組込みシステムにおいてどのようにソフトウェアを構成すればよいか,という構成方法についての課題と,どのような手順でソフトウェアを更新すればよいか,という更新プロセスにおける課題を解決する必要がある.本研究では,少ないメモリリソースや限られたダウンタイムといった組込みシステムの一般的な制約の下で,これらの課題を解決する設計手法を提案した.

 はじめに,構成における課題の解決方法として,ホームネットワークシステムにおけるサービスゲートウェイ向けに,国内で公知な標準インタフェースとして推奨されたECHONET Liteに対応したミドルウェアの設計手法を提案した.本研究では,OSGiフレームワーク☆1を活用することにより,組込みシステムの一般的課題であるダウンタイムやリソースの制約,およびECHONET Liteプロトコルで未定義の機器特定や下位通信層への対応が可能なシステムを実現している.

 次に,更新プロセスにおける課題の解決方法として自動車システムを対象に,自動車の制御を担うElectronic Control Unit(ECU)のソフトウェアの遠隔更新方法を提案した.

 自動車のECUソフトウェア更新は従来整備士等の専門技術者が実施していたため,遠隔更新に当たっては更新処理の自動化が必要であり,そのための更新制御技術が重要となる.本研究では,自動車システム向けの遠隔更新制御についての要件を整理し,標準化されたシーケンスの記述方式を軽量スクリプトに変換して車載ゲートウェイ上で実行することで,運用負荷を低減しつつセキュアに更新を実行する仕組みを示した.

 また,自動車のソフトウェア遠隔更新に当たっては,利用者が自動車を使えなく時間をできるだけ短くするためや消費電力低減のため,更新時間の短縮が重要となる.自動車システムのソフトウェア更新に当たっては車内ネットワークにおけるデータ転送時間が長く,差分更新適用による転送データ削減が有効である.本研究では,差分更新アルゴリズムのbsdiffを差分生成単位,データ構造,圧縮アルゴリズムに着目して省メモリ化する方法を示した.

 本研究では上記提案手法を実際の組込みシステムに実装して評価し,その有効性を確認した.
 

☆1 Javaベースのソフトウェアモジュールの動的更新を実現するフレームワーク



 

 
 
(2019年6月10日受付)
 
取得年月日:2019年3月
学位種別:博士(情報学)
大学:京都大学



推薦文
:(コンシューマ・デバイス&システム研究会)


本論文は,ホームネットワークや自動車などネットワーク接続された組込みシステムの拡張性に関し,拡張を容易にするための構成方法と拡張を実行する過程の2つの観点から,組込みシステムの制約下で実践的な設計手法を提案しており,産業界のシステム開発への寄与を志向する本研究会の特徴的な論文として評価できる.


研究生活


会社の製品開発の過程で創出した技術を博士論文という形にまとめることで,それぞれが世の中で解かれていなかったどのような課題を解決する技術なのか,製品という形以外に世の中にどのような貢献ができたのか,を普遍化・一般化するという貴重な経験を得ることができました.共に技術開発をした職場の皆様,博士課程で多大なご指導をいただきました主査・副査の先生方,研究会等を通じて議論いただいた皆様にこの場を借りて御礼申し上げます.