Computational Design Driven by Visual Aesthetic Preference

(邦訳:見た目の審美的好ましさを指標とするコンピュテーショナルデザイン)
 
小山 裕己
国立研究開発法人産業技術総合研究所 研究員

[背景]デザイン支援技術が必要
[問題]特に見た目の好ましさを指標とするデザイン問題
[貢献]コンピュテーショナルデザイン手法の提案


 デザインパラメタ(デザイン変数)を調整することは,多くのデザイン領域において最も基礎的な作業の一つである.このようなパラメタ調整作業の目的は,デザインの成果物の質を何らかの指標に基づいて最大化することである.特に視覚的デザインに関する領域においては,審美的好ましさ(aesthetic preference),すなわちデザインの成果物の見た目が審美的に好ましいかどうかが,デザインの指標としてよく用いられる.たとえば写真の色調編集においては,デザイナは「明るさ」や「コントラスト」などのパラメタを,写真の色調が審美的に最も好ましい状態になるように調整する.しかしながら,審美的好ましさは人間の認知と深く関連しているため,審美的好ましさの指標を簡潔なルールや数式を用いて定量化することは困難である.

 本博士論文では,審美的好ましさを指標とするパラメタ調整作業を支援するためのコンピュテーショナルデザイン手法の可能性を模索する.第一に,コンピュテーショナルな技術を使って対象のデザイン空間中における好ましさの分布を推定する手法を追究する.推定された好ましさの分布は,手作業による対話的なデザイン探索を支援する目的で使用できる.第二に,コンピュテーショナルな技術を使って,対象のデザイン空間から最も好ましいパラメタを直接発見する手法を追究する.これら2つのアプローチでは,クラウドソーシングに基づくヒューマンコンピュテーション(crowdsourced human computation)と編集履歴(editing history)の2種類のデータ源から,計算に必要な人間の好みに関するデータを得ることを考える.クラウドソーシングに基づくヒューマンコンピュテーションを用いることで,不特定多数の群衆によって生成される「一般的な」好みのデータをオンデマンドに得ることができる.それに対し,対象のユーザの編集履歴を用いることで,そのユーザの「個人的な」好みのデータを得ることができる.

 本博士論文では,特に以下の3種類のコンピュテーショナルデザイン手法を提案する.
  1. 1つ目の手法では,対象とするデザイン空間中における好ましさの分布をクラウドソーシングに基づくヒューマンコンピュテーションを用いて推定する.推定された好ましさの分布は,対話的なデザイン探索を支援するための新しいデザインインタフェースに活用される.
  2. 2つ目の手法では,1つ目の手法と同様に好ましさの分布を推定してそれを対話的なデザイン探索に活用するが,その分布を推定するためのデータとして対象とするユーザの編集履歴を用いる.さらに,この履歴に基づく好みの推定技術とともに,実践的なシナリオで編集履歴を効果的に収集し活用するためのワークフローも提案する.
  3. 3つ目の手法では,この手法のユーザによる手作業のパラメタ調整を必要とすることなく,審美的な好ましさを最大化するような最も好ましいパラメタを対象のデザイン空間から自動的に発見する.これは,クラウドソーシングに基づくヒューマンコンピュテーションを用いて最適化計算の枠組みを構築することによって実現される.

 我々は主に写真の色調編集のシナリオを用いてこれら3つの手法の有効性の評価を行った.それ以外にも,たとえば三次元コンピュータグラフィクスにおける照明デザインや仮想アバターの顔の表情のモデリングなど,多様なデザイン領域への適用例も同時に提示する.結果として,それぞれの提案手法は一般的または個人的な審美的好ましさをコンピュテーショナルに扱うことができ,またデザイン活動を支援するために意味のある方法で機能することが示唆された.本研究で提案するコンピュテーショナルデザイン手法とそれによって得られた知見が,パラメタ調整作業の枠を超えてより複雑なデザインシナリオを扱っていく将来研究へと発展していくことを期待している.
 
 
(2017年5月12日受付)
取得年月日:2017年3月
学位種別:博士(情報理工学)
大学:東京大学



推薦文
:(コンピュータグラフィックスとビジュアル情報学研究会)


本博士論文は,審美的好ましさを指標とするパラメタ調整作業のためのコンピュテーショナルデザイン手法を提案している.ヒューマンコンピュテーションと編集履歴をデータ源として活用する.新しい研究分野を切り開く斬新な研究であり,かつトップカンファレンスに複数採択されるなど世界的にも高く評価されている.  


著者からの一言


共著者であり指導者でもある五十嵐健夫先生,坂本大介先生,佐藤一誠先生,そしてさまざまな助言をくださった多くの方に,この場を借りて改めて感謝申し上げます.数学とコンピュータを駆使することでもっとデザインを面白くする研究を今後も追究していきたいと思います.