初学者向けプログラミング学習環境PENと教材に関する研究

西田 知博

大阪学院大学情報学部 准教授

[背景]コンピュータの本質を理解するためのプログラミング教育の必要性
[問題]学習意欲と効果を高めるプログラミング学習手法
[貢献]初学者に有効なプログラミング学習環境と教材の提案
 
 2020年度からの小学校でのプログラミング必修化が決まり,小学校から高等学校まで広くプログラミング学習が行われることとなった.すべての児童・生徒がプログラムを作成することを職業とするわけではないが,コンピュータに代表される情報機器を単に「情報を扱う便利な道具」として扱うのではなく,プログラミングに触れ,「情報処理の理解」を深めることは,どのような職業に就くとしても重要になると考えられる.

 そこで本研究では,プログラミングの入門教育の目標を,職業プログラマの養成ではなく,プログラミングとは何かを理解し,コンピュータの本質を理解することと定めた.さらに,高校生や大学生の初学者を主たる対象とし,自分の知識状態や考え方を明確にする力を養うことも目標とした.これら目標を達成するために,本研究ではコードを書くことにより,制御構造等のプログラミングの基礎を短時間で習得することを目指したプログラミング学習環境PENを開発した.

 PENでは,大学入試センター等の入試で用いられている言語を用いているので,付加的な説明を行わなくても容易にプログラムが理解できる.また,プログラムの入力補助機能を備えることで,プログラム作成時の誤りの混入を減らすことに寄与している.また,ステップ実行機能,スロー実行機能,変数表示機能などにより,プログラムの動作を観察しやすくしている.授業実践のアンケート結果から,PENは初学者に概ね好評であることを確認した.また,JavaScriptを用いた授業との比較では,自己評価と試験による分析の結果,双方ともPENを用いたクラスの理解度が高くなり,プログラミングの入門教育環境としてのPENの有用性が示唆される結果が得られた.

 また,中学校で扱われる「プログラムによる計測・制御」を学ぶための学習支援ソフトウェアを,PENにプラグイン機能を追加して実現した.さらに,ハードウェアを接続していなくてもプログラムの動作が確認できるシミュレータを用意した.評価は,この学習支援ソフトウェアを利用して高校生を対象とした授業において行い,ハードウェア制御に関し,短時間でも一定の理解が可能であるという結果が得られた.

 さらに,プログラミング学習教材における研究として,図形描画課題の効果に関して評価した.この研究は,情報科学を専門としない大学1年生の情報リテラシー科目の中で,キーボードから数字を読み込んで計算結果をディスプレイ画面に出力するような例題から始めて逐次・条件分岐・繰り返しを学び,最後に図形を描画するコースウェアと,図形描画の例題から始めるタイプのコースウェアを用意し,その比較をすることにより行った.2011年度から4年間の授業におけるアンケートおよび試験成績を統計的に分析した結果,図形描画を伴う例題を扱う方が,繰り返しのようなつまずきやすい学習内容でも,理解度や楽しさを下げることなく学習できていることがわかった.

 
 

(2017年6月1日受付)
取得年月日:2017年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:大阪大学



推薦文
:(コンピュータと教育研究会)


本研究では大学入試センター試験のために設計された仮想のプログラミング言語であるDNCLを,実際に実行しながら学習できるxDNCL言語に拡張し,その効果を実証した.開発した処理系はインターネットで公開され,Arduinoなど周辺機器への拡張が行われるなど有用性が非常に高いことから推薦する.


著者からの一言


長い時間がかかってしまいましたが,さまざまな授業や講義で実際に使い,評価してきた研究で学位取得できたことを嬉しく思っています.共に研究し,ご協力いただいた方々に深く感謝します.今後もコンピュータと教育に関する研究分野の発展に寄与していきたいと思っています.