初等教育における1人1台タブレット端末を活用した授業構築 〜慶應義塾幼稚舎低学年での実践〜

鈴木 二正

慶應義塾幼稚舎 教諭

[背景]1人1台タブレット端末の導入と授業実践
[問題]小学校低学年からの継続的実践の具体的手法と検証
[貢献]ICT活用教育の具体的モデルプランの提案
 
 本研究の目的は,初等教育において,「分かりやすく楽しい授業」の実現を目指し,タブレット端末を利用した学習環境の構築,指導計画の開発,授業を実践し,次世代の初等教育の具体的なモデルプランを提案することである.

 本研究では,実際の教育現場において,小学1年生の段階から1人1台タブレット端末の導入と学習環境の整備,指導計画の提案と,2年間にわたる継続的な授業実践,児童と保護者の意識調査から,ICT活用を学習行動の一部として定着させる効果を検証する一連の実証研究を行った.本研究により,小学校低学年からのICT指導計画の学習活動の一部として定着させることの有効性の証明,タブレット端末を活用した授業の開発と構築,文房具として児童のタブレット活用能力の向上,授業でのタブレット端末を活用した学びに対する保護者の賛同の獲得を実現した.

 タブレット端末活用能力の育成を目指した背景にあるのが,実際の教育現場において,ICTを効果的に活用して,「分かりやすく楽しい授業」を実践するために,明らかに示すべき点があり,その検証を行うことにある.具体的には,今,ICT活用教育をどの学年から始めるのか,どの教科でICTを活用するのか,どのICT機器を誰が使うのか,また,保護者の理解や支持を得ているのか,といった混乱がある.

 そのため,学習行動の一部として小学校1年生の段階から,国語・算数・生活科などの教科において,一連の指導計画にICT活用を組み込んで,1人1台タブレット端末を文房具として使うことで,「分かりやすく楽しい授業」の実践を行うための導入,計画,実践の具体的な手法を明らかにするとともに,その検証が必要である.

 そこで,本研究では,児童自身がICTの使い方を考えて,学習に活用しようとする意識を育てるために,早期の学年段階からタブレットの基礎教育を行うことが学習行動の一部として定着させることに効果的であるという仮説を設定し,2年間の授業実践(計31時間)を通して,有効性の検証を行った.

 学習活動におけるタブレット端末を活用する意義や,タブレットを活用した学習を受けて児童が何を学んだのか,実践のステークホルダーである児童・保護者と,インサイダーである教師から,その学習効果を確認するためのデータ収集を行った.効果の測定については,教師による直接観察法,児童のアンケート調査,保護者のアンケート調査,映像記録の解析などの調査結果から効果の検討・分析を行い,タブレット端末を活用した授業構築モデルの有効性を十分に検証した.

 

(2017年5月17日受付)
取得年月日:2017年3月
学位種別:博士(政策・メディア)
大学:慶應義塾大学



推薦文
:(コンピュータと教育研究会)


本論文は,小学校1年生から1人1台のタブレット端末を導入し,継続的なカリキュラム開発と2年間の授業実践を行い,評価したものである.小学校教員が初等教育段階の情報教育の実践例をまとめたもので,ICT活用が求められている現場の教員の大きな参考となる,非常に価値のある論文である.


著者からの一言


本研究を進めるにあたり,ご指導ご鞭撻をいただいた指導教員の先生方,また,実践授業を行うにあたり多大なご支援とご協力をいただいた実践校の皆様に心より感謝いたします.今後も,現場の一教員として,また,研究者としても独り立ちして, 先進的な実践と,研究活動により一層励んでいく所存でおります.