エネルギー予測とハードウェアの効率的な制御に基づく計算機システムの消費電力削減に関する研究


坂本 龍一
東京大学情報理工学系研究科 特任研究員

[背景]省電力機能を有するハードウェアの普及
[問題]電源制御の複雑化
[貢献]システムソフトウェアによる電源制御の隠ぺい


 近年,計算機の省電力化を目指し,さまざまな省電力機能を有するハードウェアが研究開発されている.一方で,これらの多くのハードウェアはソフトウェアからの電源制御を想定している.そのため,アプリケーションプログラマが省電力のための電源制御を行う必要があり,煩雑である.そこで,本論文では電源制御の簡単化を目指し,これらの煩雑な電源制御を隠ぺいするシステムソフトウェア構成を明らかとする.そのために,省電力な計算機アーキテクチャとアーキテクチャを仮想化するシステムソフトウェアを提案する.また,電力モデルを用いた電源制御により,省電力制御の仮想化を行うシステムソフトウェアを提案する.

 具体的には,パイプライン並列プロセッサの実行制御の高速化を行う省電力アーキテクチャを提案し,煩雑なパイプライン並列を簡単化するシステムソフトウェアを提案する.また,SSD(Solid State Drive)とHDD(Hard Disk Drive)を組み合わせた環境において,電力モデルによるエネルギー予測とHDDの省電力機能を用いたシステムソフトウェアを提案する.

 パイプライン並列プロセッサの省電力化と並列ライブラリ実行環境では,電力性能に優れたパイプライン並列プロセッサの実行環境におけるアーキテクチャ改善による省電力化と,システムソフトウェアによるパイプライン並列制御の簡単化について示す.オンチップマルチコプロセッサにおいて,プロセッサ間でデータを受け流すパイプライン並列はメモリの利用効率が高く電力効率が高い特徴を持つ.一方で,パイプライン並列は個々のプロセッサ,メモリ,データ転送をそれぞれ制御する必要があり,これらの実行制御が時間的にオーバヘッドとなる.また,パイプライン並列制御が複雑となる.そこで,制御オーバヘッドの高速化を実現するアーキテクチャと制御を簡単化するOpenCLライブラリを提案する.これにより,高速化による省電力化と,パイプライン並列制御の簡単化を実現する.

 SSDをHDDのディスクキャッシュとして用いる省電力ストレージでは電力性能と速度性能に優れたSSDをHDDのキャッシュとして利用するシステムにおける省電力化手法について示す.プロファイリングと電力モデルによりHDDとSSDの電力性能を予測し,予測にて省電力化が可能な際にHDDをスピンダウンすることでHDDの消費電力を大きく低下させる.評価では,HDD単体で利用した場合と比較し,平均で21倍のエネルギー効率の向上を実現したことを示す.

 本研究では,計算機の省電力化を目指し,ハードウェアの改善と,システムソフトウェアによる電源制御により,省電力効果を確認した.さらに,ハードウェアとソフトウェアが協調することによる省電力化手法を示した.
 

 

 (2015年6月13日受付)
取得年月日:2015年3月
学位種別:博士(工学)
大学:東京農工大学



推薦文
:(システムソフトウェアとオペレーティングシステム研究会)


メニーコアプロセッサやSSDなどのハードウェアが提供する省電力化機構を,システムソフトウェア層で制御・隠蔽し,アプリケーション透過に消費電力を削減する技術に関する研究で,今後も重要な分野の一つである省電力化に関するシステムソフトウェアの技術であることから推薦いたします.


著者からの一言


指導教員の並木先生と佐藤先生をはじめ,数多くの方々のご協力とご指導に感謝いたします.研究を通しハードウェアとソフトウェア双方について深く学ぶことができ,貴重な経験を得ることができました.計算機アーキテクチャの発展に少しでも貢献できるように精進いたします.