Computer Systems Management with a Para Pass-through Virtual Machine Monitor

(邦訳:準パススルー型仮想マシンモニタを用いたコンピュータシステム管理に関する研究)
 
表 祐志
筑波大学特別研究員

[背景]仮想マシンモニタによるシステム管理の普及
[問題]デバイス仮想化のオーバヘッド
[貢献]デバイス仮想化を用いない仮想マシンモニタによるシステム管理


 今日,企業や教育機関などの大規模システムにおいて,仮想マシンモニタ(Virtual Machine Monitor,以下 VMM)を用いたシステム管理が普及している.VMMは,オペレーティングシステム(Operating System;以下 OS)の実行環境をソフトウェアによって作り出すことで,その上でさまざまな種類やバージョンのOS・アプリケーションを実行でき,幅広いサービスをユーザに提供することができる.一方で,VMMは,それら各々のOS・アプリケーションを統一的かつ柔軟に管理する機能持つため,システム管理者はソフトウェア資源を低コストで管理することができる.

 しかし,従来のVMMでは,OSはVMMによって作り出された仮想デバイス上で動作するため,物理デバイス上で動作する場合と比較して性能が低下するという制約がある.この制約は,特に高い性能を要求するアプリケーションにとっては問題となる.たとえば,データベースアプリケーションでは高いディスクアクセス性能が求められるため,デバイス仮想化のオーバヘッドが致命的になる場合がある.また,今日ではHPCアプリケーションもVMMで柔軟に管理したいという要求があるが,デバイス仮想化のオーバヘッドが原因で,HPCアプリケーションで要求される高い性能が得られない場合がある.

 既存研究では,従来のVMMを拡張し,一部の物理デバイスをOSから直接制御できるようにすることで,デバイス仮想化のオーバヘッドを抑えるといった手法がある.しかし,従来のVMMの設計は仮想デバイスに頼っているため,すべての物理デバイスをOSに直接制御させることは難しく,多くのデバイス制御において仮想化のオーバヘッドが残る.一方で,VMMを使わない手法も用いられるが,VMMが提供する柔軟なOS管理機能が失われるため,この方法では個々のOSの種類やバージョンごとに異なる手法で管理する必要があり,管理コストを抑えるのが難しいという制約がある.

 そこで本研究では,仮想デバイスに頼る従来のVMMとは異なり,VMMでは仮想デバイスを用いない設計を採用し,性能低下を最小限に抑えつつ柔軟なOS管理機能を提供する.デバイス仮想化を行わない軽量VMMである準パススルー型VMM (BitVisor)を拡張し,今日のVMMが提供する柔軟なOS管理機能のひとつであるOSプロビジョニング機能を実現した.

 OSプロビジョニング機能は,OS・アプリケーションのイメージファイルをサーバで一元管理しつつ,複数台のクライアントマシン上でOSをネットワーク経由で一斉起動・デプロイする機能である.もともとの準パススルー型VMM は,OSの物理デバイスへのI/O処理を部分的に監視・変換する機能を持つが,プロビジョニング機能に必要なI/O処理をサーバへ転送する機能や,I/Oを多重化しOSとVMMが同じ物理デバイスに対してアクセスを行えるようにする機能はなかった.そこで,VMMでOSから物理デバイスへのI/O処理を監視し,I/O処理のコンテキストを解釈・理解することで,OSやデバイスの状態を破壊せず,適切にI/Oの転送や多重化を行えるようにした.性能評価の結果,提案システムでは,従来の仮想化を用いたVMMよりも高速にOSを動作させつつも,プロビジョニング機能が提供できることを確認した.
 


  (2015年6月17日受付)
取得年月日:2015年3月
学位種別:博士(工学)
大学:筑波大学



推薦文
:(システムソフトウェアとオペレーティングシステム研究会)


表祐志君は国際会議ASPLOS 2015(採択率17.8%)に日本の学生として初めて論文が採択され,その研究能力は国際的に高く評価されています.これまでに本研究会での発表や,本会論文誌への採択など,本研究会との関わりも深く,将来性が大いに期待されることから推薦いたします.


著者からの一言


研究ではひとつの解を導き出すのも容易ではなく多くの失敗を経験しました.しかし,失敗するたびに原因を分析し,新たな方法を考え出し,実装・検証する過程は,全力で戦っているという充実感,次こそは成功するかもしれないという高揚感に満ちていました.この過程で培われた粘り強さ・発想力・実装力を武器にして,世界を変えるような大きな仕事に挑戦していきたいです.