分散環境における業務状況提示に関する研究

 
湯澤 秀人
富士ゼロックス(株)研究技術開発本部 コミュニケーション技術研究所

[背景]遠隔からの不適切なタイミングのコミュニケーション増加
[問題]分散環境において相手の業務状況把握が困難
[貢献]分散環境コミュニケーションのための業務状況提示手法の提案

 オフィスワークは,一個人で完結することはなく,さまざまな人々との協業によって遂行される.近年では,社会的な要求や技術進歩により,場所や時間に依存せず,分散環境でメンバと協業しながら働くことが可能となった一方で,メンバ間のコミュニケーションが複雑化してきた.分散環境では状況の共有が十分に行えず,現代の多忙なコミュニケーションを困難にしている.そこで本研究では,分散するワーカー同士が協同しながら業務を遂行する分散環境において,現在の業務状況を共有することによって,コミュニケーション,特に円滑な割り込みを可能にする業務状況提示手法の提供を目標とした.

 円滑な割り込みを可能にする手法を探索するために行った,コミュニケーションの実態調査の結果,分散環境でのコミュニケーション開始の支援には,時間的な間に配慮し,その時点での活動状況を示す情報を提供することが重要であることを確認した.この調査結果を元にコミュニケーションの割り込み交渉モデルを定義し,さらにこのモデルに基づいて分散環境における業務状況提示手法を提案した.分散環境での突発型コミュニケーションの開始を実現するため,抱えている個人ワークの状況や会議の状況など,受信者の状況を提供する手法である.特に,受信者側は送信者が割り込みの余地を残す情報を提供し,送信側はそれを元に受信者側の状況に配慮して割り込み判断を行う点が,本コンセプトの重要な点である.言い換えれば,お互いに配慮して,割り込みの余地を残す状況を共有する点が本コンセプトの重要な点である.分散環境において相手がコミュニケーション可能かどうかを判断するために必要な状況は,大きく2つに分類される.個人ワークの業務に関する状況と,周囲の人との相対的な状態によって決定される状況である.

 提案手法の効果を確認するため,プロトタイプシステムを実装して評価実験を行った.業務の典型例として,個人ワークと会議を題材とし,それぞれに適応したプロトタイプを実装した.個人ワークでは業務状況として,タスクごとの割り込み容認状況をメンバ同士で共有するシステムを設計した.検証の結果,不適切なタイミングのメッセージ数が減少し,タスクパフォーマンスを維持することができることを確認した.会議においては,会議参加者の相対的な状態から会議の状況を特定して通知する会議状況提示システムを用いて,その効果を検証した.検証の結果,「会議参加者自身の状況」が割り込み抑制に与える効果を確認した.「他の会議参加者の状態との相対的に決定した状況」では,割り込み回数の抑制効果は確認できなかったものの,「割り込み受信者」の主観評価には影響を与えることが確認された.

 以上の結果から,本研究で提案した業務状況提示手法は,分散環境における突発型コミュニケーションの開始支援に有効に機能することが示された.


 
 

 (2015年6月13日受付)
取得年月日:2014年9月
学位種別:博士(工学)
大学:慶應義塾大学



推薦文
:(グループウェアとネットワークサービス研究会)


本研究では,分散環境における突発型コミュニケーションの成立を支援するための業務状況提示モデルを示し,実業務に基づいた実験によって,その効果を示した.この研究成果は,工学上,工業上,多大なる貢献が期待できる.よって,本論文は,大きな実用性を持つ論文として推薦を受ける資格があるものと認める.


著者からの一言


私の研究テーマは,現代に要求されている多様な働き方を支えるコミュニケーション技術です.今後も博士課程で得た知識と経験,人脈を最大限に活用し,多様な働き方の要求に即した技術の提供に努めていきたいと思います.研究を進めるにあたり,お力添えをいただいた先生方,家族,同僚の皆様に深く感謝いたします.