ウェアラブル・ユビキタスコンピューティング環境のための高度情報提示に関する研究

 
磯山 直也
青山学院大学理工学部 助教

[背景]コンピュータが提示する情報の取得環境の広がり
[問題]受動的な情報取得機会の増加
[貢献]情報提示機構構築の柔軟化,心身への影響を考慮した情報提示
 
 コンピュータやセンサの利用形態は,それらを身に着けて生活するウェアラブルコンピューティング,あらゆる環境に埋め込まれるユビキタスコンピューティングへと拡大している.これらの環境における情報取得は,環境からの働きかけにより,ユーザが特別に操作することなく受動的に情報を取得する方法を用いることが多い.今後の情報技術の発展によって,受動的に情報を取得する環境はさらに増えると考えられる.このような環境を幅広く,効果的に利用するために,環境構築を簡単にすること,情報提示を用いてユーザの生活を豊かに,便利にすることが重要である.

 本研究では,ウェアラブル・ユビキタスコンピューティング環境における情報提示技術の確立を目指して,情報提示環境を誰でも簡単に構築できるシステム,情報取得者の心身への影響を考慮した情報提示を行うシステムを開発した.

 1つ目に,ウェアラブルコンピューティング環境における情報提示機構を柔軟に構築できることを目的とし,今後の広がりが期待される衣服上での情報提示デバイスの使用について,個々のユーザがデバイス種類選択・装着個所選択を自由にでき,それらを柔軟に変更できる手法を提案した.衣服上に配置されたデバイスの位置を把握することで,各デバイスに機能を割り当てたり,デバイス同士を関連付けたりといったことが簡単に行うことができ,ウェアラブルコンピューティング環境構築の柔軟性が飛躍的に向上する.

 2つ目に,ウェアラブルコンピューティング環境において,心身への影響を考慮した情報提示を行うことを目的とし,頭部装着型ディスプレイによりいつでもどこでも情報提示を受けられることを利用した手法を提案した.認知心理学において,先行刺激を与えることによって,後続の刺激に対する処理が無意識的に促進されるプライミング効果が存在する.提案手法ではこの効果を情報提示システムに適用し,ユーザが取得したい情報に関連する映像を提示することで,低負荷で無意識的に価値のある実世界情報を取得できるシステムを実装した.
 
 3つ目に,ユビキタスコンピューティング環境における情報提示機構を柔軟に構築できることを目的とし,インタラクティブシステムを簡単に設置でき,センサ技術に精通していない人でもメンテナンスを行えるシステムを実装した.さまざまな状況下でユーザアクションを認識できるフレームワークを提案し,実装したシステムを用いて,2度にわたるメディアアートの展示を行い,システムが実環境下でも耐え得ることを確認した.

 4つ目に,ユビキタスコンピューティング環境において,心身への影響を考慮した情報提示を行うことを目的とし,観客参加型演劇YOUPLAYを行った.人の行動に合わせた反応を返すインタラクティブなコンピューティング技術と,昔から多くの人々に親しまれている演劇を組み合わせた,新たなジャンルのエンタテインメントとなっている.2度の期間に分けて全80公演行い,そこで見られた様子やアンケート結果から考察を行った.またシステム運用において起きたトラブルについてもまとめており,今後のシステム設計・運用のための重要な指針となることを期待する.


(2015年5月27日受付)
取得年月日:2015年3月
学位種別:博士(工学)
大学:神戸大学



推薦文
:(エンタテインメントコンピューティング研究会)


本論文は,演劇,アート,電飾服,日常での装着型ディスプレイなどの新たな情報提示環境における人間への心理的影響を考慮した新しい提示アルゴリズムおよび環境を提案し,その実装と評価について述べている.提案技術はプロ環境でも使われる信頼性を持ち,かつ学術的価値も高く,エンタテインメント技術発展に寄与する推薦に値する論文である.


著者からの一言


研究指導のみならずさまざまな経験や機会を与えてくださった指導教員の先生方,研究に協力いただいた皆様に,この場をお借りして,改めて心より感謝を申し上げたいと思います.今後は,博士課程での経験を基として,より広い視点,視野をもって研究や場の創造活動に臨んでいきます.