学習支援システムにおける数式入力改善に関する研究

 
白井 詩沙香
武庫川女子大学生活環境学部 助教

[背景]教育の情報化に伴う学習支援システムの役割
[問題]解答時に学習者の負担となっている数式入力の改善
[貢献]初学者向け数式入力UIの提案と学習支援システムへの実装
 
 教育の情報化や教材のディジタル化が推進される中,多様な学生に対して個々に応じた教育支援を行うために,多くの教育機関で学習支援システムが活用されている.しかし,数学分野では根号,積分記号など数式入力の扱いにくさが学習者に負担をかけ,課題となっている.

 一方,2011年に武庫川女子大学の福井は,数式入力支援のために,数式を簡略に読むような文字列を入力し,仮名漢字変換のように変換することで数式入力ができるインタフェースを提案した.しかし,教師の教材作成や研究者の論文作成支援を目的に開発されたため,その利用は専門家に限定されていた.

 本研究では,学習支援システムにおける数式入力方法の改善を目的に,上記インタフェースの数式変換エンジンを活用し,学習支援システム向けに最適化した数式入力インタフェースを開発し,国内外で実用化されているMoodleで動作する数式自動採点システムSTACKへの実装に成功した.特に,本研究では,これまで十分に検討されていなかった中学生,高等学校生およびリメディアル教育が必要な大学生など数学初学者への学習支援時に必要な数式入力方法を対象に,数式辞書データ,インタフェースデザインなどを設計している.

 提案数式入力インタフェースの評価は,数式入力の操作性と数学学習時の満足度の2つの観点から行った.まず,数式入力の操作性に関する評価では,高等学校生から大学生までの男女121人に,従来の数式入力方法または提案インタフェースを使って数式入力タスクを行ってもらい,各インタフェースの効果・効率・満足度を定量的に計測し,提案インタフェースの操作性の高さを明らかにした.次に,数学学習時の満足度に関する評価では,提案インタフェースを実装した学習支援システムを使った数週間に渡る学習実験を行い,従来方式と変わらない習熟率で学習が進み,インタフェースに関する満足度を改善できることを実証した.

 さらに,応用研究として,提案インタフェースの特性を活かした数学ドリル学習支援システムを新たに開発し,中学生に教育実践を行い,中学生にも提案方式が受け入れられることを明らかにした.これにより,幅広い学習対象およびさまざまな数学学習支援システムへの応用の可能性を示すことができた.

 本研究で得られた成果は,学習支援システムにおける数式入力方法の選択肢の幅を広げ,初学者を対象とした数学学習支援に貢献できると期待できる.また,提案数式入力インタフェースは,学習支援システムのみならず,数式入力が必要なさまざまなシステムにも応用可能である.今後は,自然言語処理などで使われている機械学習などによる予測技術を導入し,提案数式入力インタフェースのインテリジェント化に努めていきたい.

 

(2015年6月2日受付)
取得年月日:2015年3月
学位種別:博士(情報メディア学)
大学:武庫川女子大学



推薦文
:(コンピュータと教育研究会)


本博士論文では,数学学習者のためのパーソナルコンピュータ上での新しい数式入力方式を提案しており,実際に100名以上の高校生と大学生で実用性を検証している.今後オンライン学習における数式入力の重要性はますます高くなることが期待されるため,本論文を博士論文速報に推薦する.


著者からの一言


この度は研究会推薦博士論文に推薦いただき,ありがとうございました.本研究は指導教官をはじめ,多くの方のご指導,ご支援により行うことができました.この場をお借りして,改めて感謝を申し上げます.今後も博士論文で提案した手法を発展させ,ICTを活用した学習支援環境の発展に貢献できるよう精進していきたいと思っております.