M2Mシステム最適化手法の研究

 
本田 和明
(株)IDY 代表取締役社長

[背景]M2Mシステムの運用性能の追求
[問題]
導入環境ごとに異なるSIと保守の負担
[貢献]M2MのみならずICT全般に寄与


 ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)分野で注目を集めるM2M(Machine To Machine)は,機器と機器をネットワークに接続して情報をやりとりする通信の総称である.M2Mは,普及する広域の携帯電話網や技術開発が進む近距離無線通信技術と併せて,自動販売機やコインパーキング,太陽光発電システムなど,身近な場所での利用がすでに始まっている.また,農林水産業,医療・福祉,教育などの分野においても,M2Mを用いた見える化,分析,遠隔制御により,新しい産業やサービスへの利用が期待されている.一方で,現在,市場には多くのM2Mデバイスや安価に利用できる回線,M2Mプラットフォームが提供されているが,機器の設置場所や環境がそれぞれ異なり,M2Mが提供するソリューションにおいては,性能の追求だけでは解決できない課題が存在する.この課題を解決することが,M2MのみならずICT分野全般にとっての優先事項である.

 本研究では,M2Mの抱える課題を明らかにし,環境に共通したSI(System Integration)と保守に着目した.さらに,個々の性能を追求している現在のM2M市場に対し,最適化という手法を用いて,運用に適した仕様を追求することで課題の解決が可能であることを実証した.具体的には,M2Mを構成する要素のうち大きく異なる仕様や環境に影響されやすいM2Mシステムに着目し,M2Mシステムを構成するM2Mデバイス,M2M回線,M2Mインタフェースそれぞれの課題を4象限マトリクスにより整理し,検討を行った.

 M2MインタフェースはSIと保守の要であり,OneM2Mなどの標準化団体でも共通のインタフェースが多く提案されている.しかし,共通化は図れても運用性能を向上させなければSIと保守の負担は軽減されない.そこでSIと保守の負担を軽減するM2Mインタフェースについて提案し,実証実験によりその効果を確認した.M2Mデバイスは環境依存が最も大きいことから,SIと保守の負担を軽減するためには専門的な知見を必要とせず,誰でもどんな場所でも容易に使える仕組みが必要となる.このため,M2Mデバイスが使用するアンテナに着目し,高性能を引き出すアプローチとは別に最適化という観点に立ち,どのように使用しても一定の性能が確保できるアンテナを提案,こちらにおいても実証実験を実施し,効果を確認した.M2M回線は運用の安定性に大きく影響するため,スマートフォンに利用されるような安価な回線の利用が運用上のトラブルになることが多く,M2M利用における回線選択の指針が必要とされていた.

 本研究により,現在まで個々の性能を追求することで生じていた課題が解決され,最適化による運用性能の重要性が確認できた.今後ますます利用が拡がるM2Mにとって,本研究の意味するものは大きい.本研究がM2Mの普及に貢献し,ICT全般の発展に寄与することを期待する.
 
 

 
 (2015年6月8日受付)
取得年月日:2014年9月
学位種別:博士(システム情報科学)
大学:公立はこだて未来大学



推薦文
:(コンシューマ・デバイス&システム研究会)


被博士論文は大変実用的な論文であり,研究成果に基づく製品がすでに社会に多く出回っている.自動販売機などで実際に一般人が目にする製品であり,社会に貢献する製品の技術研究を重視するCDS研究会の成果を内外に示すよい論文と思われるので推薦する.


著者からの一言


技術だけを追い求めると高性能に向かいがちですが,本研究では運用性能という観点で運用に最適な技術を追求しました.特に,あえて性能の劣化を導くことで,劣化した状態で性能を安定させる手法は,技術者である筆者にとって新しい発見でした.M2Mは人を介さず機器同士が通信を行うため,導入環境ごとに異なるSIと保守の負担軽減は最重要課題です.本研究で得られた成果を活かし,さらなるM2Mの発展に貢献していきます.