アンコンシャス情報表示技術に関する研究

 
渡部 智樹
日本電信電話(株) 主任研究員

[背景]インターネットと家電を有機的に連携させ,便利でエコロジーな生活を実現
[問題]
日常生活の中で身の回りの情報に気付き即座に活用することが難しい
[貢献]社会実装可能な仕組みを用いて,家電の状態表示と制御をWebから実現


 インターネットの普及や端末の小型化などにより,人はさまざまな状況において情報を取得できるようになった.家にいるときでもWebやメール,SNSなどを使って情報取得しており,ユーザ自ら主体的にアクセスして情報を得ることができる.しかし,ユーザが知るべき情報や知っておくとよい情報など,ユーザが意識していなかった情報(アンコンシャス情報と呼ぶ)にはなかなかたどり着けない.すなわち,環境はネットワークにつながりさまざまな情報が取れるようになったが,主体的に取りにいかないと役立つ大事な情報を入手することができていない.

 ところで,世界中で電力利用の削減と効率化が強く求められている.特に日本では2011年3月の東日本大震災の影響により,企業だけでなく一般ユーザにまで節電の意識が高まっている.HEMS(Home Energy Management System)を使えば電力情報を見ることはできるが,ユーザが自ら主体的にアクセスして閲覧しなければならない.さらに,そのときユーザが電気消費量を見て節電しようと意欲がわいたとしても,そのための行動が煩わしいものだと意欲が低下し,節電の操作が達成されないままになってしまう.

 そこで本研究では,ユーザが気づいていない役立つアンコンシャス情報を,ユーザが主体的にアクセスするのではなく,ユーザが利用している端末にユーザの関心内容と合わせて提示する仕組みを実現した.具体的には,自宅にある身の回りの家電に関する状態変化や操作を具体的なアンコンシャス情報として設定し,家電の状態変化に応じてユーザが閲覧中のWeb画面に自動的に重畳表示するシステムを提案し,プロトタイプにより実現可能性を示した.重畳表示する内容はユーザの関心や度合い,また家電の変化状態に応じて動的に変えることができる.さらに,省エネに役立つ情報や家電操作の遠隔実行ボタンも重畳表示することで適切な状態把握とスムースな操作を実現している.
 
 本研究ではECHONET Liteと呼ばれる規格に対応した家電を対象とすることで,状態表示や遠隔操作の実現性を検証した.このECHONET LiteはHEMSの公知な標準インタフェースとして認定されており,今後一般家庭への普及が見込まれている.

 重畳表示の実現にはスマホやタブレットで標準装備されているWebブラウザを利用しており,閲覧中の画面に重畳表示する技術は,サービスとして現実的な方法を比較検討することで導入した.特にHTML5として標準化されている機能を利用することでOSや端末によらないサービスの提供を可能とした.

 この技術は,周囲の状況に合わせて任意の多様な情報をユーザが閲覧中のWeb画面に表示することを可能としており,日常生活に存在するさまざまなモノの情報とWebとを融合し,多様なシーンで利用することができる.

 以上のように,本研究では家電とWebを有機的に連携するシステム基盤を実装し,その実現可能性と有効性を明らかにした.今後さまざまな分野に広く応用展開されることを期待する.
 
 
 
 (2015年6月8日受付)
取得年月日:2015年3月
学位種別:博士(工学)
大学:神奈川工科大学



推薦文
:(コンシューマ・デバイス&システム研究会)


インターネットと家電が連携した先の情報技術として,状況に応じて適切な情報を組み合わせたアンコンシャス情報の生成方法,アンコンシャス情報へのユーザの簡易な対処方法,ユーザの行動を邪魔をしない表示手法といった将来直面するであろう現実的課題に解決策を与えた.よって本論文を博士論文速報に推薦する.


著者からの一言


博士課程の研究指導を力強く励まし博士としての見識について指導してくださった先生方,大学研究室関係者の皆様,会社の上司や同僚,そしていつもそばで見守ってくれた家族に,改めて心より感謝申し上げます.今後も引き続き研究活動に励み,社会に貢献できるように努めてまいります.