A Study on Low-power and Low-latency 3D NoC Architecture and Routing Optimization

(邦訳:低電力低レイテンシ3次元NoCのアーキテクチャとルーティング最適化に関する研究)
 
蒋 欣
早稲田大学理工学術院情報生産システム研究センター 助手

[背景]システムオンチップの更なる多機能,高性能化が必要
[問題]回路の大規模化による消費電力や通信速度の問題
[貢献]3D NoCによる高性能低消費電力デバイスの実現


 近年の大規模集積回路(LSI)技術の革新に伴い,1チップに搭載可能な回路規模の大幅な増大が可能となり,半導体デバイスとその応用システムのさらなる性能向上が期待されている.しかし,平面的なデバイスアーキテクチャでは消費電力や通信遅延の増大などの問題を引き起こし,多機能・高性能なSoC(System on Chip)を実現する上での大きな課題となっている.この問題を実装方式で解決する手段として3次元(3D)実装が,また,システムの構成様式での解決方法としてNoC(Network on Chip)アーキテクチャがある.3D実装方式ではシステムを複数チップで構成し,これらを積層することで占有面積を2次元平面実装に比べて小さくでき,高密度化が達成できる.3D実装ではシリコン貫通電極(TSV:Through Silicon Via)に基づくTSV方式がよく使用される.TSV方式は各チップの表裏を貫通するTSVでチップ間を接続するのでパッケージサイズは小さく,配線長も短縮でき,システムの動作速度の向上や消費電力の低減が期待できる.そこで,3D化による配線長短縮とNoCによるシステム拡張性の両方の利点を持つ3DNoCがこれからのSoCとして有望視されている.

 本研究ではTSVベースの3DNoCを取り上げ,この上に実装するシステムのためのNoCアーキテクチャおよびパケット転送のルーティングの最適化について研究したもので,3つの提案からなる.第一の提案はカスタマイズされた機能を持つSoCを実現するために,特定用途向け3D NoCアーキテクチャ生成のアルゴリズムを提案し,実験で評価した.図のように,NoCトポロジ設計ではネットワークに必要なスイッチの数とサイズを決定し,スイッチとコア間の物理リンクは,フローパス最適化,最小リンク最適化およびスイッチ割り当ての三段階の最適化過程を通して決定する.アーキテクチャの最適化問題はNP困難な問題である.そこで提案手法では遺伝的アルゴリズム(GA)に基づいた最適化手法を適用している.評価実験として行ったマルチメディアSoC(D26)のシステム実装例では,提案手法によるアーキテクチャは,従来の3Dメッシュトポロジに比べて電力を約50%,レイテンシを約14%削減できた.

 
3D NoCアーキテクチャ最適化結果

3D NoCアーキテクチャ最適化結果

 他の2つの提案は3DメッシュNoCのための最適なルーティングアルゴリズムおよび完全適応型の耐故障ルーティングアルゴリズムである.従来の確定型,部分的適応型,およびテーブルベース完全適応型の3通りのアルゴリズムの欠点を克服するために,3D NoC向けにテーブルを用いない完全適応型ルーティングアルゴリズムを提案した.また,TSV数の制約を考慮し,より短い距離の経路を確立する工夫を導入している.耐故障ルーティングアルゴリズムでは,1ホップ離れた場所の故障情報を事前に取得する故障検出方式を導入し,単純な迂回路選択ではなく,故障個所を回避しつつ短い経路を選択することができ,遅延を低減している.実験結果より,従来手法に比べてレイテンシ,エネルギ,スループットなどの性能が大幅に改善された.

 以上,本研究ではNoC設計のアーキテクチャとパケット転送のルーティング問題に特化して研究を行った.特定用途向け3D NoCシステムを含めて,今後の多機能・高性能なSoC実現の道筋を示すことができた. 

 (2015年6月1日受付)
取得年月日:2014年9月
学位種別:博士(工学)
大学:早稲田大学



推薦文
:(システム・アーキテクチャ研究会)


本論文はTSVを用いた3次元ネットワークオンチップ(3D NoC)のアーキテクチャとルーティングの最適化アルゴリズムを提案している.フロアプラン最適化と,適切なTSV選択およびトラフィックのバランスやデッドロックを考慮したルーティング手法により,低電力で高性能なNoCの実現を示しており,学術的かつ実用的な価値がある.


著者からの一言


博士学位を目指している期間は,前人が踏んでいない新規性のある研究を目標としたため時間がかかり,所望の結果が得られないことなどもよくあった.しかし,指導教員や研究室仲間から沢山の助言や励ましを受け,最終的にさまざまな困難を乗り越えて博士号を取得でき,非常に幸せと感じている.これらの貴重な経験は私の一生の宝物である.