Computational Photography based on 8-D Reflectance Field

(邦訳:8次元リフレクタンスフィールドに基づくコンピュテーショナルフォトグラフィに関する研究)

 
田川 聖一
大阪大学 特任研究員

[背景]撮影技術発展のための高次元計測
[問題]複雑な計測装置の簡略化と実用に即した応用
[貢献]鏡を使った撮影光学系設計とその実用性検討


 物の見え方はさまざまな情報を含んでいる.材質が変われば,同じ形状であっても見え方は異なり,同じ材質でできていても形状が異なれば見え方はやはり異なる.このことは物の見え方の詳細な情報から材質や形状を推定できることを示唆している.しかし,一般的に,物の見え方は2次元の撮影画像として記録される.本研究では,記録する情報の次元を高くすることで,より発展した解析的な撮影を目指した.一般的に,カメラはレンズによって対象物の像を撮像素子上に結像することで画像を取得するが,ここで現実に即さない事象を前提としている.レンズは物体側の一点から出たさまざまな方向へ進む光線を捕らえ,屈折させて,素子側の一点に集めているが,この際に光線の持つ情報がすべて等しいことを仮定している.しかし,実際には同一点を観測していても観測角度によって反射光は異なる.つまり,レンズを用いると多様な光線情報は単一の値に落とし込まれてしまう.その情報の欠落は,より大きいレンズで顕著となる.さらに,レンズの焦点の合う位置に観測対象がない場合,異なる点からの光線を一画素に集約し,各光線の情報は完全に失われてしまう.その結果として画像上に現れるものがボケである.ボケは画像全体の鮮明さを低下させるが,対象のみを鮮明に撮影することに利用できるため,写真の演出のために好まれて使用されることもある.最近の研究では,ボケの広がりの形状を制御して,より魅力的に演出する手法も提案されている.しかし,一般的にはボケのない,画像中のすべてのものが鮮明に撮影された画像が求められる.符号化開口と呼ばれる手法は,大口径のレンズのメリットを残しつつ,全焦点画像を得るために提案されてきた.符号化開口はレンズ上の各点に入射する光線の一部をブロックすることで,ボケの形状を,周波数解析により鮮明化できるようにした.ここで重要な点は,被写体の情報を画素単位ではなく,レンズの集める光線単位で制御するようになったことである.被写体から発せられた光線を記録するとき,光線の次元は4となる.被写体表面の各点は2次元で表現でき,そこからの出射角度も2次元で表現できるからである.この計測には,被写体を含む球面上の各点をさまざまな方向に通過する光線を記録する必要がある.これを実現するためには,カメラを球面状に配置する必要がある.物の見え方は観測の方法だけでなく,照明にも強く依存する.物体から見て照明と観測は入射と出射の違いはあるものの,光線単位で情報を持つことに変わりはない.この入射と出射の4次元光線を表現するものが,8次元リフレクタンスフィールドと呼ばれる情報である.本研究では,従来,次元の高さから困難とされた計測や計測装置の不在からあまり取り組まれなかった演算・解析に取り組み,8次元リフレクタンスフィールドの実用化を目指した基礎技術の提案により,将来的な撮影技術の礎を築いた.

 

 
 (2013年6月14日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:大阪大学



推薦文
:(コンピュータビジョンとイメージメディア研究会)


8次元リフレクタンスフィールドは対象とする空間の見え方を完全に表現する視覚情報であるが,その高次元性から計測・応用の研究は十分に取り組まれてこなかった.本論文は,計測用多面体鏡の設計開発,演算による画像化技術の体系化,フォーカス制御画像の鮮明化を実現し,応用技術の有効性まで示した実用化の基礎をなす研究である.


著者からの一言


本研究は,工学的な計測装置設計から情報学的なマルチメディア処理や数学的な解析まで幅広い要素から成り立っています.さまざまな分野に触れ,優秀な研究者の方々と議論するなど,有意義な経験をさせていただきました.このようなすばらしい研究生活を送れましたこと,これまでお世話になった多くの方に感謝いたします.