制御機器の仕組みを理解するための情報教育教材に関する研究


井戸坂 幸男
三重県松阪市立飯高東中学校 教諭

[背景]機器のブラックボックス化と教育現場の操作教育重視
[問題]制御機器の仕組みを教えるための教材や教育手法の不足
[貢献]制御機器の仕組み理解のための情報教育教材の検証

 社会にはコンピュータが組み込まれた制御機器が多く普及しているが,ユーザーの多くは使い方は知っていても仕組みまでは理解していない.これは,機器が複雑化しブラックボックス化しているため,分かりにくくなっていることが原因と考えられる.そして,教育現場では仕組みよりも使い方に重点を置いた教育がされている.これは,仕組みを教えるためには複雑で高度な知識が必要であるため,分かりやすく教えるための教材の不足が原因と考えられる.教育現場では,制御機器の仕組みを教えるための教材や教育手法が必要とされている.そこで,中学生を対象とした制御の仕組み理解のための情報教育教材の研究を進めた.

 制御機器の仕組みを理解するためには,情報科学の基礎概念やプログラミングの知識が必要となる.この概念や知識を中学生が学習可能であるかを検証し,効果的な教育手法について検討した.その結果,情報科学の学習は,「コンピュータサイエンス アンプラグド」を使った体験的な教育手法による授業が効果的で,情報科学の基礎概念が理解できるだけでなく,授業を通してコンピュータに興味・関心を持つ生徒が増えることが明らかになった.プログラミング学習は,プログラミング言語「ドリトル」を使ったグラフィックスを中心とした授業が効果的で,自分の考えや工夫を取り入れた作品制作ができ,ソフトウェアの仕組みの理解につながることが明らかになった.

 次に,中学校における計測・制御学習について検討し,市販されている自律型の制御ロボット教材の調査とその教材を使った授業を評価した.その結果,扱った教材の仕組みを理解するだけでなく,身近にある電気器具の制御に関する理解も深まることが明らかになった.しかし同時に,「プログラムを作るときに,考えを整理しやすい制御ソフトが必要である」「制御ロボットは故障やトラブルが多いため,トラブルの発生を少なくする対策が必要である」という二つの課題も明らかになった.

 1つ目の課題の解決策として,状態遷移の考え方に基づくプログラミング方法を提案し,中学生の授業で効果を検証した.教育用のプログラミング言語であるスクイークEtoysをロボット制御に対応させ,状態遷移の考え方に基づくプログラミングができるようにした制御ソフトウェア「Rtoys」で実験授業を行った.その結果,市販教材に使われている手続き型のプログラミングに比べ,状態遷移の考え方に基づく方法は,考えを整理でき,複雑な動きをするプログラムに有効な方法であることが明らかになった.2つ目の課題の解決策として,制御教材を複数の生徒で共有する学習システムを提案し,中学生を対象とした実験授業で検証した.開発したシステムは,プログラムをシミュレータで確認した後,教室内のネットワークを使ってサーバに転送し,サーバから制御ロボットに転送して動作確認をする.制御ロボットは教室全体で共有することができる.このシステムは使用する制御ロボットの台数を少なくできるだけでなく,指導者は生徒の学習の進捗状況を把握できるため授業運営も効果的にできる.実験授業では,1人1台の環境で学習する場合と同程度の学習効果があることを確認し,システムの有効性が明らかになった.

 本研究は,中等教育における制御教育だけでなく,初等教育や高等教育における情報教育にも寄与できるものと考える.
 
 (2013年6月12日受付)
取得年月日:2013年3月
学位種別:博士(工学)
大学:大阪電気通信大学



推薦文
:(コンピュータと教育研究会)


情報教育が充分とはいえない中学校の技術分野において,プログラミングによる計測・制御の学習効果を飛躍的に向上させる可能性を持っている.さまざまな制御教材の調査及び授業における評価を通して計測・制御学習の課題を明らかにし,状態遷移による制御プログラミングと教材を共有する学習システムを提案している.


著者からの一言


中学校の技術・家庭科と理科の教員として毎日教壇に立ち,社会人大学生として学位を修得しました.日々の学校での仕事をしながら学位が取れたのは,研究を支えてくださった方々や検証授業で協力してくれた生徒の皆さんのおかげと感謝しています.今後は,学校現場の授業改善につながる研究を進めていきたいと思っています.