情報処理学会 第79回全国大会 会期:2017年3月16日~18日 会場:名古屋大学 東山キャンパス 情報処理学会 第79回全国大会 会期:2017年3月16日~18日 会場:名古屋大学 東山キャンパス
コンピュータは,どんな作品を生み出していくのだろうか−人工知能と創造性
日時:3月18日(土)13:00‐15:00
会場:第1イベント会場(坂田平田ホール)
【セッション概要】人工知能技術を利用して,小説・音楽・アートといった芸術分野の作品を「創作」させる取り組みは,もはや珍しくなくなった.本イベントでは,芸術作品の自動生成・自動創作を対象とした人工知能研究についてご報告いただき,その現状について理解を深める.現在,どうやってコンピュータは作品を作っているのか,それは「創作」と呼べるのか,もし呼べるのであればその創作主体は誰なのか.併せて,今後問題となると考えられている,コンピュータを利用して作成された作品等の著作権の扱いについて,法改正に向けた議論の現状についてご報告いただく.
司会:佐藤 理史 (名古屋大学 大学院工学研究科電子情報システム専攻 教授)
【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科博士後期課程電気工学第二専攻研究指導認定退学.京都大学工学部助手,北陸先端科学技術大学院大学助教授,京都大学大学院情報学研究科助教授を経て,2005年より名古屋大学大学院工学研究科教授.工学博士.自然言語処理,人工知能の研究に従事.
13:00-13:05 開催趣旨説明
13:05-13:30 講演(1) 人工知能と小説
松原 仁 (公立はこだて未来大学 システム情報科学部 複雑系知能学科 副学長・教授)
【講演概要】従来の人工知能はもっぱら既存の(むずかしい)問題をコンピュータに解かせることを目指してきた.いわば知能の理性的な側面を実現しようとしてきたのだが,それがある程度達成できた現在は知能の感性的な側面の実現に取りかかる時期と考える.そこでコンピュータに小説を創作させるプロジェクトを立ち上げた.星新一氏のショートショートを手本にして彼のような作品をコンピュータに作らせることを目標としている.まだ目標の達成までは遠いが,,人間とコンピュータが共同で創作した作品が第3回の星新一賞という文学賞で一次審査を通過した.ここではこのプロジェクトを通じて浮かび上がってきた,コンピュータに小説を書かせるというのはどういうことか,小説における独創性をどう考えるか,小説の良し悪しの評価をどう考えるかなどについて議論する.
【略歴】1986年東大大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了.同年通産省工技院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所.2000年公立はこだて未来大学教授.2016年同副理事長.人工知能,ゲーム情報学,観光情報学などに興味を持つ.人工知能学会前会長,本会理事.
 
13:30-13:55 講演(2) 人工知能と音楽
嵯峨山 茂樹 (明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科・大学院先端数理研究科 現象数理学専攻 専任教授)
【講演概要】音楽分野と人工知能の関わりに関して,我々の研究をいくつか紹介する.日本語歌詞からの自動作曲システム“Orpheus”は,漢字仮名混じりの日本語歌詞の読みと韻律を解析し,指定されたリズムパターンで,指定された和声進行との和声学的要求を満たす旋律を生成し,伴奏パターンと組み合わせ,作曲結果を楽譜表示するとともに,合成音声と合成器楽音で演奏するものである.同様の原理で二重唱も可能である.確率統計モデルによる自動作詞などの機能も付加して,webベースの実験システムをwww.orpheus-music.orgにて公開して,今までに同じ歌詞での作曲を含めて40万曲作曲され,公開曲は300万アクセスされている.自動伴奏システム“Eurydice”は,電子ピアノで楽譜を演奏する際に,テンポ変動や弾き誤りや任意のジャンプがあっても,確率モデルによって演奏箇所を追跡し,オーケストラなどの伴奏譜を同期して演奏するものである.これにより,ピアノ協奏曲や連弾や三重奏などの一人練習や小コンサートも可能になる.その他,ギター自動運指決定や自動編曲など,数理モデル化とアルゴリズムにより解決する音楽情報処理の面白さを紹介したい.
【略歴】1974年東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻修士課程了,電電公社武蔵野電気通信研究所(現NTT研究開発センタ)に勤務,音声信号処理・認識・合成の研究に従事(1990〜93年ATR自動翻訳電話研究所にて自動翻訳電話プロジェクトを遂行).1998年北陸先端科学技術大学院大学教授.2001年東京大学大学院情報理工学系研究科教授.2014年から明治大学総合数理学部および大学院先端数理科学研究科教授.音楽情報処理の研究に従事.科学技術庁長官賞などを受賞.電子情報通信学会フェロー.
 
13:55-14:20 講演(3) 人工知能と芸術−知能の美学
久保田 晃弘 (多摩美術大学 美術学部 情報デザイン学科 メディア芸術コース 教授)
【講演概要】地球外知的生命体のための芸術作品を制作することに,一体どういう方法や意味があるのだろうか.「自然知能研究グループ」では現在,美学に対する,新しいアプローチの研究を推進している.具体的には,圏論という現代数学から得られる公理的構造(導来圏の八面体公理)が,人間の美的活動を総合的に説明できることを示し,そこから美学の数学的構造が存在する可能性を検討している.美学を人間の感覚や感性ではなく,数学という普遍的な言語で記述することができれば,美や美学という人間にとって本質的な活動を,人工知能を含む人間以外の知性や地球以外の知的生命体とも共有することができ,美術作品や芸術活動の場や意味が飛躍的に拡大するだろう.古代の石器や洞窟壁画がそうであるように,知能は芸術の基盤である.だとすれば,知能の結果(美術作品)の美だけでなく,知能そのものの美—すなわち知能の美学がそこにはあるに違いない.
【略歴】多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース教授・メディアセンター所長.世界初の芸術衛星と深宇宙彫刻の打ち上げに成功した衛星芸術プロジェクト(ARTSAT.JP)をはじめ,バイオメディア・アート,自然知能と美学の数学的構造,ライブ・コーディングによるサウンド・パフォーマンスなど,さまざまな領域を横断・結合するハイブリッドなメディア芸術の世界を開拓中.芸術衛星1号機の「ARTSAT1:INVADER」でARS ELECTRONICA 2015 HYBRID ART部門優秀賞をチーム受賞.「ARTSATプロジェクト」の成果により,平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞(メディア芸術部門)を受賞.
 
14:20-14:45 講演(4) 人工知能と著作権
上野 達弘 (早稲田大学 法学学術院 教授)
【講演概要】人工知能をめぐる著作権問題は,人工知能によって生成された“作品”の法的保護の問題のみならず,機械学習の成果としての学習済みモデルや,効果的な学習のために作成される学習用データセットの法的保護の問題,さらには,機械学習の発展のために行われる大量のコンテンツ利用の可否等が問題となる.著作権法の現状を踏まえつつ,現在展開されている政府レベルでの議論や外国の状況を紹介した上で,今後の課題と将来の展望を模索する.
【略歴】1994年京都大学法学部卒業,1996年同大学大学院法学研究科修士課程修了,1999年同大学院博士後期課程単位取得退学,1999年日本学術振興会研究員および(財)国際高等研究所研究員,2001年成城大学法学部専任講師,2004年立教大学法学部助教授,2010年マックスプランク知的財産法研究所客員研究員,2011年立教大学法学部教授,2013年早稲田大学法学学術院教授.著作権法学会・理事,日本工業所有権法学会・常務理事,ALAI Japan理事,法とコンピュータ学会・理事のほか,文化審議会著作権分科会・国際小委員会・委員,同法制・基本問題小委員会・委員,知的財産戦略本部・次世代知財システム検討委員会・委員等を歴任.専門は知的財産法(特に著作権法).
 
14:45-15:00 全体討論