メディアアート

第5回:メディアアートの今:「それはメディアアートではない」でなく「それもメディアアートである」という時代へ

 

日  時:
2017年11月10日(金)
会  場:
【本会場】化学会館7F(東京都千代田区)
【遠隔会場】大阪大学中之島センター7F 講義室702(大阪市北区)
受付開始:
9:30~

20世紀には様々な芸術スタイルが誕生した。映像の普及や現代アートの成立、コンピュータグラフィクスからテクノロジー媒体を用いたアート、コミュニティアートなどの無形芸術に至るまで様々なものが生まれた。その中で本セミナーでは「メディアアート」に関わる各人の定義やパネルディスカッションなどが乱立する背景を鑑み、メディアアートという存在そのものの多様性を俯瞰することを目的とする。本セミナーにより、映像メディア、メディア批評、コンピュータグラフィクス、表現技術探求、現代アート(ミクスドメディア)、アート的広告表現など様々な分野に跨ったメディアアートという言葉を回収し、そのジャンルの最先端事例と議論について参加者が一定の解釈を持てるように促す。「願わくば統一的な定義づけを動機とする画一的な方向性を超えて、多様な分野を含むジャンルとしてのメディアアートを参加者とともに探求したい。「それはメディアアートではない」でなく「それもメディアアートである」という解釈を目指す。

オープニング[10:00~10:30]

落合 陽一様 コーディネータ:落合 陽一(メディアアーティスト/博士(学際情報学)/筑波大学 学長補佐/図書館情報メディア系 助教 デジタルネイチャー研究室主宰/Pixie Dust Technologies.Inc CEO)
【略歴】1987生、2015年東京大学学際情報学府博士課程修了、2015年より筑波大学図書館情報メディア系助教デジタルネイチャー研究室主宰。専門はCGH、HCI、VR、視覚聴覚触覚ディスプレイ、デジタルファブリケーション。著書に「魔法の世紀(Planets)」など。2015年米国WTNよりWorld Technology Award 2015、2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica、EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prizeを受賞。2016年末から2017年まで自身初となる大規模個展「Image and Matter:Cyber Arts towards Digital Nature」をマレーシア・クアラルンプールで開催した。

セッション1[10:30~11:30]

「メディアアート」が投射する文化状況

専門の文化施設や教育機関が設立され、メディアテクノロジーが主要な表現手段として定着したこの20年で、「メディアアート」という言葉は、使用される場面も、その解釈も格段に広がり、多様化したように思える。昨今では、芸術(ファインアート)の一領域として、または商業広告の先鋭的な手法として、そして舞台や装置における演出上のスペクタクルとして、さらには創造産業やイノベーションを創出する契機としても「メディアアート」が登場する。矛盾をもはらむこの内実のゆらぎは、各専門領域における評価や批評に多くの混乱をもたしているが、ゆえにそれは情報化・グローバル化によって複雑化する日本の文化状況を投射しているとも言えるだろう。本講演では、「メディアアート」をめぐる日本の文化政策の変遷と、急速に発展を遂げるアジアのシーンを紹介しつつ、「メディアアート」を享受する現在の社会・文化的状況へと議論を開いていきたい。

廣田 ふみ様 講師:廣田 ふみ(独立行政法人国際交流基金アジアセンター 文化事業第1チーム所属)
【略歴】情報科学芸術大学院大学[IAMAS]修了。IAMASメディア文化センター研究員を経て、2008年より山口情報芸術センター[YCAM]にてメディアアートをはじめとする作品のプロダクション・企画制作等に携わる。2012年より文化庁文化部芸術文化課の研究補佐員としてメディア芸術の振興施策に従事。文化庁メディア芸術祭の海外・地方展開を含む事業を担当。同時期にメディアアート作品の修復・保存に関するプロジェクトを立ち上げる。2015年より現職。現在は、日本と東南アジアの文化交流事業の一環としてメディアアートの企画に取り組む。二松学舎大学都市文化デザイン学科非常勤講師。日本記号学会情報委員長。

セッション2[11:35~12:35]

広告におけるテクノロジーと表現

私は、アーティストではない。少なくとも、普段仕事としている制作について、「メディア・アート」の「作品」と認識したことはない。私が目指しているのは、何かのために機能する表現。広告会社に勤め、クライアントの持つ課題を解決するデザインや、コラボレーターが求めている適切な表現を提案し、社会にむけて実装する制作者であると思っている。そういった自分の認識とは別に、私が制作を担当したプロジェクトが、アルス・エレクトロニカのPrix Ars ElectronicaやSTARTS Prize、文化庁メディア芸術祭大賞の受賞作品として評価されたこともあるし、数は少ないがアーティストとして美術館での展示を行ったこともある。テクノロジーがメディアを目まぐるしいスピードで進化させ、その瞬間その瞬間でメディアのコミュニケーションの温度は変容する。この時代にしかないメディアで表現しているのが、アーティストなのか、ビジネスのための表現なのか。違いはそこだけか。それらは全く違うものなのか。残念ながら、僕は答えを持っていませんが、これまで自分自身が出掛けてきたプロジェクトおいて、何を考えたのかについてお話致します。

菅野 薫様 講師:菅野 薫(株式会社電通 CDC/Dentsu Lab Tokyo グループ・クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト)
【略歴】2002年電通入社。テクノロジーと表現を専門に幅広い業務に従事。本田技研工業インターナビ「Sound of Honda /Ayrton Senna1989」、Apple Appstoreの2013年ベストアプリ「RoadMovies」、東京2020招致最終プレゼン「太田雄貴 Fencing Visualized」、国立競技場56年の歴史の最後の15分間企画演出、BjörkやBrian Enoとの映像プロジェクト等々活動は多岐に渡る。JAAA クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2014年、2016年)/カンヌライオンズ チタニウム部門 グランプリ / D&AD Black Pencil / 文化庁メディア芸術祭 大賞 / Prix Ars Electronica 栄誉賞など、国内外の広告、デザイン、アート様々な領域で受賞多数。

セッション3[13:35~14:35]

それもメディアアートである、が問題はクオリティーだ。誰がどう評価するのか?

メディアとはそもそも媒体という意味で、ほぼありとあらゆるアートはメディアアートである。が、最近はコンピューターを使ったものをメディアアートと直感的に理解している人が多数だと思う。「それはメディアアートではない」でなく「それもメディアアートである」という時代での討論すべき重大な問題はクオリティーについてだと思う。クオリティーについて「誰」が「如何」に評価するのか?そしてこれから、制作者はどの様な態度を持つべきなのか?漫画からCGI、インタラクティブ・インスタレーション(一般的に言われるところのメディアアートなのかな?)、スペキュラティブ・デザイン、バイオ・アートといった分野と海外を放浪してきた自分の視点も含めて話してみようと思う。

長谷川 愛様 講師:長谷川 愛(東京大学 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 川原研究室 特任研究員)
【略歴】アーティスト、デザイナー。バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、テクノロジーと人がかかわる問題にコンセプトを置いた作品を制作。IAMAS卒業後渡英。2012年英国Royal College of ArtにてMA修士取得。2014ー2016年秋までMIT Media Labにて研究員、MS修士取得。現在東京大学にて特任研究員。「(不)可能な子供/(im)possible baby」が第19回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞。森美術館、アルスエレクトロニカ等、国内外で多数展示。

セッション4[14:40~15:40]

ポリゴン・ピクチュアズの34年:グラフィックスデザインからエモーションデザインへ

34年前に河原敏文がポリゴン・ピクチュアズを創業した際、コンピュータを用いて三次元グラフィックスを描く・動かすこと自体がチャンレンジであり、その研究開発が活動の中心であった。ツールは進化し、電脳空間に存るデータの集合体はアーティストによりアニマ(魂)を吹き込まれ、多くの物語を世界に発信するようになった。ポリゴン・ピクチュアズの34年間は、コンピュータアニメーションの歴史とも言える。過去・現在を振り返り、将来の可能性について考えてみたい。

塩田 周三様 講師:塩田 周三(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役社長/CEO)
【略歴】新日本製鐡株式会社入社後、株式会社ドリーム・ピクチュアズ・スタジオ立ち上げに参画、1999年ポリゴン・ピクチュアズ入社。2003年代表取締役に就任、米国TVシリーズ制作や海外市場をターゲットにしたコンテンツ企画開発を実現。Prix Ars Electronica(豪州)、SIGGRAPH(米)では日本人初の部門審査員を歴任、2008年には、米国アニメーション専門誌「Animation Magazine」が選ぶ「25 Toon Titans of Asia(アジア・アニメーション業界の25傑)」の一人に選定された。2012年に『超ロボット生命体トランスフォーマープライム』のエグゼクティブプロデューサーとして第39回デイタイム・エミー賞アニメーション番組特別部門最優秀賞を受賞。2016年アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員を務める。

セッション5[15:45~16:45]

メディア/アートをめぐって

いうまでもなく、メディア・アートという名前に含まれる「メディア」と「アート」というふたつの言葉は、それぞれ別々の意味、歴史、文脈を持っている。たとえば「メディア」の歴史は、仮に現代的なテクノロジーの登場以降に限定したとしても「映像史」「コンピュータ史」「インターネット史」などに分裂してゆく。メディア・アートの定義をめぐる困難は、おおむねこのような分裂によって引き起こされていると言ってよいだろう。本セミナー全体は、メディア・アートという言葉で示される領域の外延を拡張するという目的を掲げていると思われるが、そのプロジェクトはとりもなおさず、メディア・アートの分裂を加速させるものとなるだろう。本発表では、メディア・アートを「前衛史」の視点から再検討し、「メディア」と「アート」の関係を問い直すことで、分裂し、バラバラに展開するメディア・アートの諸相に輪郭を与え、それらの理論的な接点を探る。

黒瀬 陽平様 講師:黒瀬 陽平(合同会社カオスラ 代表社員)
【略歴】1983年生まれ。美術家、美術批評家。カオス*ラウンジ代表。ゲンロンカオス*ラウンジ新芸術校主任講師。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士(美術)。2010年から梅沢和木、藤城嘘らとともにアーティストグループ「カオス*ラウンジ」を結成し、展覧会やイベントなどをキュレーションしている。主なキュレーション作品に『破滅*ラウンジ』(2010年)、『カオス*イグザイル』(F/T11主催作品、2011年)、『キャラクラッシュ!』(2014年)、『カオス*ラウンジ新芸術祭2015「市街劇怒りの日」』(2015年)など。著書に『情報社会の情念』(NHK出版、2013年)。