イベント企画
量子コンピュータ技術基盤の創出に向けて
9月4日(水) 15:30-17:30
第1イベント会場(創立50周年記念館 金光ホール)
【セッション概要】 大規模なデータを高速に処理するために新しい原理に基づく情報処理技術が期待されている。量子情報技術はその一つであり、従来不可能であった計算タスクが可能になると考えられている。しかし、大規模量子コンピュータを実現し、現実の問題に適用するためには量子アーキテクチャ、ソフトウェア、アルゴリズム、アプリケーションといった量子を賢く使う技術を確立しなければならない。本シンポジウムはこのような量子コンピュータ技術基盤を創出するために、量子コンピュータ技術の基礎と現状、将来について議論を深める。
15:30-15:35 司会
富田 章久(北海道大学 大学院情報科学研究院 教授)
【略歴】 1984年東京大学理学修士、1998年同博士(工学)。1987年より日本電気(株)で光機能素子、半導体レーザおよび量子情報科学の研究に従事。2000-2010年ERATO今井量子計算機構プロジェクト・ERATO-SORST量子情報システムアーキテクチャプロジェクト量子情報実験グループリーダー。2010年より北海道大学大学院教授。光量子情報技術の教育と研究に従事。
15:35-15:55 講演(1) コンピュータ・アーキテクチャから見た量子への期待と方向性
井上 弘士(九州大学 システム情報科学研究院 教授)
【概要】 ついに半導体の微細化が終焉を迎えつつある。このままでは、着実に発展を遂げてきたコンピュータ・システムの性能向上が停滞するという深刻な事態を招きかねない。その一方、ニーズ面ではビッグデータやAI処理に代表されるように高度かつ複雑なアプリケーションが爆発的に普及しており、持続可能な高度情報化社会を実現するには更なる情報処理能力が求められる。したがって,このようなニーズ/シーズ間ギャップを解消すべく、微細化に頼らない新たなコンピュータ・システム構成法の確立が今まさに世界で求められている。この本質的かつ深刻な問題を解決する一つの手段として、量子デバイスの活用が世界的に注目されている。今後、次世代コンピュータ・システムの構築において量子デバイスをどのように活用すべきであろうか?本講演では、コンピュータ・アーキテクチャの観点から量子デバイスへの期待を述べるとともに、その特性を活用した次世代コンピュータの実現に向け解決すべき課題や方向性を議論する。
【略歴】 1996年に九州工業大学大学院情報工学研究科博士課程(前期)、2001年に九州大学大学院システム情報科学研究科情報工学専攻博士課程(後期)をそれぞれ修了。博士(工学)。2001年より福岡大学工学部電子情報工学科助手。2004年より九州大学大学院システム情報科学研究院助教授、2015 年より同大教授、現在に至る。高性能/低消費電力プロセッサ/メモリ・アーキテクチャ、スーパーコンピューティング、超伝導コンピューティング、ナノフォトニック・コンピューティング、量子コンピューティング、などに関する研究に従事。
15:55-16:15 講演(2) 量子ハードウェアの基礎と研究開発動向:汎用量子コンピュータと量子アニーリングマシン
川畑 史郎(産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門 研究グループ長)
【概要】 量子コンピュータや量子アニーリングマシンのハードウェア開発を巡る動きがここ数年で活発化してきた。最近では、IBM・インテル・グーグル・マイクロソフト・アリババといった巨人に加えて、スタートアップが量子ハードウェア開発にぞくぞくと参入するようになっている。また、アメリカ・中国・EU・イギリスは、巨額の研究開発予算を汎用量子コンピュータ開発に投入している。日本においても、昨年度から文科省 光・量子飛躍フラッグシッププログラムQ-LEAPとNEDO AIチップ・次世代コンピューティングプロジェクトがスタートした。本講演においては、汎用量子コンピュータ及び量子アニーリングマシンハードウェアの基礎、最新研究開発動向、技術課題、ビジネス展開の可能性について紹介する。
【略歴】 1995年名古屋大学大学院修士課程修了。1998年大阪市立大学大学院博士課程修了。博士(工学)。電子技術総合研究所を経て、現在産業技術総合研究所研究グループ長。オランダTwente大学、フランスCNRS理論物理学研究センター、フランスLaue-Langevin研究所、フランスLaboratoire de Physique et Modélisation des Milieux Condensés、スウェーデンChalmers工科大学、ロシア国立研究大学高等経済学院にて客員教授や客員研究員等を併任。専門は、物性理論、量子情報理論、非線形物理、デバイス物理。共著に『量子情報の物理』、『超伝導磁束状態の物理』、『量子コンピュータ/イジング型コンピュータ研究開発最前線』。文科省Q-LEAP量子情報処理領域サブプログラムディレクター、日本工学アカデミー 量子コンピュータ研究開発戦略プロジェクト委員、量子ICTフォーラム参事、日本物理学会 J. Phys. Soc. Jpn. Head Editor。
16:15-16:35 講演(3) 量子回路設計(仮)
山下 茂(立命館大学 教授)
【概要】 将来量子計算を実行するためには、「量子回路」と呼ばれるものを設計する必要がある。これは、現状のデジタルシステムにおける回路設計に対応するものであり、できるだけ実現コストが少ない回路を設計を目指すという意味で、ある種の最適化問題と見ることができる。本講演では、量子回路設計の分野で、計算機科学の分野からみて、どのような最適化問題が今まで研究されているかを紹介する。
【略歴】 1995年京大・工・情報卒。平7同大大学院修士課程修了。同年日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所・研究員。2000年科学技術振興事業団今井量子計算機構プロジェクト研究員(兼務)。2003年奈良先端大・情報科学研究科・助教授を経て2009年より現職。2012年国立情報学研究所・客員教授(兼務)。情報学博士(京大)。IEEE Transactions on CAD Best Paper Award、丸文学術賞、情報処理学会山下記念研究賞 等受賞。
16:35-16:55 講演(4) 量子コンピュータソフトウェアの動向
湊 雄一郎(MDR株式会社 CEO)
【概要】 現在の計算機の微細化が限界に近づいており、ムーアの法則が成り立たなくなってきた今、ナノサイズの新しい計算原理に基づいて動作する量子コンピュータが注目を浴び始めている。量子コンピュータは現在のコンピュータと同じ動作を行うことができる汎用性と、量子コンピュータ特有の動作である重ね合わせやもつれ、位相の操作などを活用しながら次世代の高速アルゴリズムの探索が世界中で行われている。ここでは量子コンピュータの基本原理を確認し、どのような分野に応用できるかを見ていきたい。また、現在は主に量子シミュレーションと呼ばれる手法によって今のコンピュータでは扱えない大規模なユニタリ行列計算を利用した量子化学計算や量子断熱計算が主流であり、量子機械学習と呼ばれる今のコンピュータでは実現できない処理を活用した新しいデータの取り扱いも増えている。基礎から応用までを確認し量子コンピュータの魅力に触れてもらいたい。
【略歴】 東京大学工学部卒業。隈研吾建築都市設計事務所を経て、2008年MDR株式会社設立。2015年総務省異能vation最終採択。2017~2019年内閣府ImPACT山本プロジェクトPM補佐を務める。2019年からは文科省さきがけ領域アドバイザー。研究分野・テーマはイジングモデルアプリケーション、量子ゲートモデルアプリケーション、各種ミドルウェアおよびクラウドシステム、超電導量子ビット。
16:55-17:15 講演(5) 量子アニーリングのソフトウェア基盤技術創出とアプリケーションの探索
門脇 正史(株式会社デンソー 先端技術研究所 情報エレクトロニクス研究室 課長)
【概要】 自動車業界では、コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化が、100年に一度の大変革の時代を生み出そうとしている。弊社はこの大きな変化へ適応する取組みの中で、3年前から量子コンピュータの利用に関して研究開発を進めてきた。当初はD-Waveの量子アニーラの初期ユーザとして利用を開始した。現在は、ほかのプラットフォームも視野に入れつつ、D-Waveを中心に量子アニーラが有用なアプリケーションの探索、またそれを支える基盤技術の開発に取組んでいる。ユーザ企業としての量子コンピュータ技術との関わり方について、弊社の事例を紹介する。
【略歴】 1999年東京工業大学理工学研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。大学院在学中に、量子アニーリングの基本原理を指導教官の西森教授と提案。卒業後はローム(株)にてFPGAの開発に従事。バイオベンチャーにてバイオインフォマティクス研究に携わる。国立成育医療センター研究所、京都大学での研究を経て、エーザイ(株)にてゲノム創薬、臨床試験、AI創薬に従事。2018年より(株)デンソーにて量子アニーリングや量子コンピュータの研究に携わる。
17:15-17:25 講演(6) おわりに(仮)