イベント企画
音波通信技術とその応用
9月3日(火) 9:30-12:00
第2イベント会場(一般教育棟 A棟 A21)
【セッション概要】 空間伝搬する音波を用いたディジタル通信は、近年の携帯情報端末の普及と高性能化により実施環境が整ってきたため、大規模な実地試験や実用化が始まっている。本パネルディスカッションでは、まず音波通信技術の歴史、分類、技術概要を簡単に紹介した後、技術開発に携わる研究者と、独自技術を開発し実用化を始めている複数の企業からパネリストを招待し、技術の特徴、利用場面、現状の課題等を紹介いただく。また、パネリストとコーディネイターにより、今後の展開と課題を議論する。それぞれの技術の特徴・応用・課題について理解を広げることで、本技術を用いてサービス展開したい事業者や、本技術をより発展させたい研究者へ有益な情報を提供する。
9:30-9:55 講演(1) 音波通信技術の概要
西村 明(東京情報大学 総合情報学科 教授)
【概要】 空間伝搬する音波を用いたディジタル通信は、音響信号をキャリアとしてディジタル情報によって変調する音響モデム方式と、音声や音楽信号の何らかの特徴量を変調してディジタル情報を秘匿するデータハイディング方式に大別される。前者は可聴周波数上限付近を用いる手法、後者はいわゆる音響電子透かしとして考案されてきた様々な手法が多く用いられる。送信器はスピーカ、受信器はマイクを備えたスマートフォンなどのユーザが使用する携帯情報機器が一般的で、受信復号した情報がユーザにとって有益な体験をもたらす様々な応用が考えられている。スピーカとマイクの距離は、1m未満の極近距離、数m以下の近距離、屋内での数10m以下の中距離、屋外での数100mにも及ぶ遠距離での利用がそれぞれ想定される。距離が遠くなるに従い、音伝播に伴う通信妨害要因も増えるため、用途に応じた情報伝送量、実時間処理、頑強性が、音波通信技術には求められている。
【略歴】 1990年九州芸術工科大学音響設計学科卒業。1996年九州芸術工科大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。1996年東京情報大学情報学科助手を経て、2012年より同情報文化学科教授、2013年より同総合情報学科教授。楽器音、音空間知覚、聴覚マスキング機構、オーディオ測定技術、音響情報ハイディング技術、音響法科学の研究に従事。IEEE、AES、電子情報通信学会各会員、日本音響学会理事、日本音楽知覚認知学会常任理事。博士(芸術工学)。
9:55-10:20 講演(2) 音響データハイディングに基づく防災放送システムの現状と課題
小嶋 徹也(東京工業高等専門学校 情報工学科 教授)
【概要】 情報ハイディングとは、画像や音響信号、映像などのマルチメディアデータに人間の視聴覚で知覚できないような形式で秘密のメッセージを埋め込む技術のことである。本研究では、音響情報ハイディング技術を用いて、防災無線通信システムで使用されるサイレン音に詳細な災害情報や避難経路、救援物資などの情報を埋め込んで伝送することを考える。この方式により、電波を使用せず、スピーカから放送されるサイレン音のみを用いて迅速かつ正確な情報伝送が可能となる。伝送された情報は受信者のスマートフォンやタブレットなどでスクリーンに視覚的に表示されるため、耳の不自由な方でも確実な情報を得ることができる。また、本研究で提供するのはサイレン音にメッセージを埋め込む送信側ソフトウェアと受信用アプリのみであり、既存のインフラをそのまま使用できるため、初期投資額はほぼゼロである。本講演では、この研究に関する最新の成果と問題点、今後の展望などについて述べる。
【略歴】 1968年札幌市生まれ。1997年3月北海道大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。1997年4月電気通信大学情報システム学研究科助手。2001年9月東京工業高等専門学校助手。現在、同・教授。2010年4月より1年間、メルボルン大学客員研究員。系列生成、情報ハイディング技術等の研究に従事。著書に「はじめての情報理論」(近代科学社)がある。電子情報通信学会、IEEE等会員。
10:20-10:45 講演(3) 音響通信技術 AnotherTrack の実用例と課題の紹介
鈴木 久晴(エヴィクサー株式会社 研究開発事業部 取締役 部長)
【概要】 電波を利用しない音響通信という要素技術について、近年注目が集まっている。EvixarではAnotehrTrackというブランド名で音響通信技術を提供しており、様々な分野で利活用が進んでいる。本格的な事業展開を開始した2012年頃から現在に至るまでの事例を紹介し、市場からのニーズの変遷、今後の課題について紹介する。
【略歴】 2004年九州芸術工科大学 芸術工学研究科 芸術工学専攻 博士前期課程修了。 2007年九州大学大学院 芸術工学府 芸術工学専攻 博士後期課程修了。同年九州大学 COE学術研究員。2008年より、エヴィクサー株式会社入社、現在に至る。同社では、音響通信に関連する要素技術/関連アプリケーションの研究・開発を行う。2007年日本音響学会 第24回 粟屋 潔学術奨励賞受賞。博士(芸術工学)。
10:45-11:10 講演(4) 屋外拡声における音透かし技術の展開と、防災情報伝達への応用
東 啓(TOA株式会社 グローバル開発本部 ソリューション開発部 サービスビジネス開発課/ソフトウェア技術開発課 課長)
【概要】 TOAはこれまで非常放送、防災放送など音を用いた情報伝達によって社会の安全・安心を守る役割を果たしてきた。一方で日本では近年突発的で大規模な地震や風水害が多発しており、各自治体は治水や治山など工事による対策に加えて、住民を安全に避難誘導させるための情報伝達にも注目している。TOAは放送機器メーカーとして、音声をより明瞭に伝えることで避難誘導させることにこれまで注力してきたが、加えてサイネージやスマートフォンなどと連動することで、より多くの人に必要な情報を伝える高度避難誘導システムの構築を検討しており、その一環として非常放送や防災放送をキャリアとした音透かし技術の活用を模索している。本セッションでは、TOAの音透かし技術と非常放送や屋外拡声における音透かしの課題の解説、また適用事例の紹介を行う。
【略歴】 1994年 九州芸術工科大学音響設計学科卒業。1996年 九州芸術工科大学大学院博士前期課程修了 芸術工学修士。1996年 TOA株式会社入社。入社後、音声のネットワーク伝送に関連する技術開発と商品開発に従事し、IPv6の活用にも注力。2016年より音透かし技術開発担当。
11:10-12:00 パネル討論 音波通信技術の今後と課題
【概要】 音波通信技術の用途に応じた現状での技術的課題について、これまで研究を行ってきた研究者、および既に実用を始めている企業、準備段階の企業から、特に以下のような点について意見を伺う。電波のような使用周波数帯域や手法を含む通信の標準化や規格化は全く行われていない点をどう考えるか。利用範囲が広がるにつれて、混信や相互妨害などは考えられるのか。通信用途によっては、傍受に対する秘匿性も必要になるのか。様々な新しい利用法が考案されるにあたり、技術面あるいは利用面での特許の縛りを受けることはないのか。放送番組の基準では「通常知覚できない技法で、潜在意識に働きかける表現はしない。」などの規制があるが、一般的な音響機器を使って実現可能な音波通信がこれに該当しないことを示す必要性はあるのか。
司会:西村 明(東京情報大学 総合情報学科 教授)
【略歴】 1990年九州芸術工科大学音響設計学科卒業。1996年九州芸術工科大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。1996年東京情報大学情報学科助手を経て、2012年より同情報文化学科教授、2013年より同総合情報学科教授。楽器音、音空間知覚、聴覚マスキング機構、オーディオ測定技術、音響情報ハイディング技術、音響法科学の研究に従事。IEEE、AES、電子情報通信学会各会員、日本音響学会理事、日本音楽知覚認知学会常任理事。博士(芸術工学)。
パネリスト:小嶋 徹也(東京工業高等専門学校 情報工学科 教授)
【略歴】 1968年札幌市生まれ。1997年3月北海道大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。1997年4月電気通信大学情報システム学研究科助手。2001年9月東京工業高等専門学校助手。現在、同・教授。2010年4月より1年間、メルボルン大学客員研究員。系列生成、情報ハイディング技術等の研究に従事。著書に「はじめての情報理論」(近代科学社)がある。電子情報通信学会、IEEE等会員。
パネリスト:鈴木 久晴(エヴィクサー株式会社 研究開発事業部 取締役 部長)
【略歴】 2004年九州芸術工科大学 芸術工学研究科 芸術工学専攻 博士前期課程修了。 2007年九州大学大学院 芸術工学府 芸術工学専攻 博士後期課程修了。同年九州大学 COE学術研究員。2008年より、エヴィクサー株式会社入社、現在に至る。同社では、音響通信に関連する要素技術/関連アプリケーションの研究・開発を行う。2007年日本音響学会 第24回 粟屋 潔学術奨励賞受賞。博士(芸術工学)。
パネリスト:東 啓(TOA株式会社 グローバル開発本部 ソリューション開発部 サービスビジネス開発課/ソフトウェア技術開発課 課長)
【略歴】 1994年 九州芸術工科大学音響設計学科卒業。1996年 九州芸術工科大学大学院博士前期課程修了 芸術工学修士。1996年 TOA株式会社入社。入社後、音声のネットワーク伝送に関連する技術開発と商品開発に従事し、IPv6の活用にも注力。2016年より音透かし技術開発担当。
パネリスト:薗田 光太郎(長崎大学 大学院工学研究科電気・情報科学部門 助教)
【略歴】 2005年 東北大・院・情科 博士後期課程修了。博士(情報科学)。2005年〜2009年 国立研究開発法人 情報通信研究機構(旧・独立行政法人 情報通信研究機構)研究員。2009年より長崎大・院。工学研究科 助教、現在に至る。音源移動を考慮した救急車サイレン音への情報重畳手法など、音響情報ハイディング技術の拡張応用の研究に従事。