イベント企画
機械学習と量子物理学の交差点
9月14日(木) 9:30-12:00
第3イベント会場(2号館241号講義室)
【セッション概要】 機械学習と量子物理学は、これまで独立に発展してきたが、近年、様々な文脈で、関わりあう場面が増加している。量子アニーリングなど、量子物理学にヒントを得た組み合わせ最適化手法が、機械学習の諸問題に適用される一方、物質・材料科学においては、量子効果を扱う第一原理計算と機械学習を組み合わせることで、より高速な新材料開発が可能になっている。また、量子ドットを扱う大規模実験施設においては、確率モデルを用いたリアルタイム制御が重要な役割を果たしている。本企画では、量子物理学と、機械学習をはじめとする情報科学に精通した若手研究者を招待し、現在、どのような融合研究が行われているのかを概観する一方、新たな共同研究の可能性を探る。
9:30-10:15 講演(1) 量子アニーリングが拓く機械学習と計算技術の新時代
田中 宗(早稲田大学 高等研究所 准教授)
【概要】 最近、「量子コンピュータ研究開発へ巨大企業が参入」というニュースが度々報じられている。今まさに、量子技術の新時代へ突入していると言えよう。一昔前、遠い未来の夢の技術として考えられてきた量子コンピュータはいま、リアルな技術として圧倒的な速度で研究開発が進んでいる。量子技術は、新しい応用領域の展開というだけでなく、古典技術の困難を突破する量子超越性の探求といった基礎学理の側面をも含む、挑戦的なものである。本講演では、その量子技術の中でも、私が研究開発を進めている量子アニーリングに焦点を絞り、解説する。量子アニーリングは組合せ最適化問題を高速かつ高精度に解く方法であり、専用マシンの開発が加速的に進んでいる計算技術である。量子アニーリングの計算原理、応用事例、更には量子アニーリングの研究開発に触発されて登場した周辺技術について紹介し、量子アニーリングがどのようなシーンで活用されると期待されるか、量子アニーリングが拓く新時代の将来展望を述べる。
【略歴】 2003年東京工業大学理学部物理学科卒業。2008年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了。博士(理学)。その後、東京大学、近畿大学、京都大学を経て、現在は早稲田大学高等研究所准教授及び、JSTさきがけ研究者(「量子の状態制御と機能化」領域)。量子アニーリングのハード・ソフト・アプリの研究開発加速を目指し、量子アニーリングやその周辺技術の応用に関する産学共同研究を積極的に進めている。専門は統計力学理論、物性理論、量子情報理論。
10:15-11:00 講演(2) 材料科学におけるデータ駆動型研究 − 機械学習による量子力学的力場や有効モデルの推定 –
田村 亮(国立研究開発法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 研究員)
【概要】 現在、材料科学分野ではデータ駆動型研究が注目されている。材料科学には、材料構造データ、実験測定データ、第一原理計算データといった様々な種類の材料データが存在し、それらは量子物理学と密接に関連している。一般的に、これらのデータの取得には長時間測定や長時間シミュレーションが必要な場合が多く、簡単にデータを収集することが困難である。そのため、既知材料データを機械学習のトレーニングデータとすることで未知材料データを推定し、材料開発の高速化を目指す研究が、材料科学におけるデータ駆動型研究である。講演者は、材料科学分野の様々な部分の高速化及び、材料開発に重要な情報の抽出を目指し、様々な種類の材料データを対象としたデータ駆動型研究を実施している。本講演では、第一原理計算を入力としたカーネル法による量子力学的力場推定や、実験測定データを入力としたベイズ統計による有効モデル推定など講演者が携わったいくつかの事例を紹介し、量子物理学と機械学習の融合研究の可能性について議論する。
【略歴】 2012年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。 2015年4月より、国立研究開発法人物質・材料研究機構 研究員。現在、同機構、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)および統合型材料開発・情報基盤部門に所属。2017年4月より東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 講師を兼務。統計力学、材料科学、マテリアルズ・インフォマティクスの研究に従事。
11:15-12:00 講演(3) 量子レザバーコンピューティング -量子実時間ダイナミクスの機械学習への応用-
藤井 啓祐(東京大学 工学系研究科 助教)
【概要】 時系列データ処理の一手法としてレザバーコンピューティングという手法がしられている。本来は、リカレントニューラルネットワークを構成するためのー手法(echo state network)として提案されたが、ネットワークの詳細な調整の必要がなく大自由度非線形力学系であれば利用できるという汎用性の高さから、ソフトロボットやレーザー等の非線形性と大自由度性を有した物理系を機械学習のための計算リソースとして利用するフィジカルレザバーコンピューティングという方法が研究されている。一方、量子力学に従って動く量子多体系は粒子数に対して指数的に系の次元が大きくなるため、従来の計算機でシミュレーションすることが指数的に困難になり、芳醇な複雑性を有した物理系である。本講演では、このような量子力学に従う物理系にフィジカルレザバーコンピューティングを応用し、量子多体系の実時間ダイナミクスの大自由度性と複雑性を機械学習の計算リソースとして利用する方法である量子レザバーコンピューティングを紹介する。短期記憶の特性や非線形性、また時系列データ処理を行った場合のベンチマーク結果についても紹介する。
【略歴】 2011年3月京都大学大学院工学研究科 博士課程終了。博士(工学)。2011年4月から2013年3月まで、大阪大学大学院基礎工学研究科 特別研究員。2013年4月から2016年3月まで、京都大学白眉センター特定助教。2016年4月から東京大学光量子科学研究センター助教。2016年10月からJSTさきがけ研究員を兼任。量子情報、とくに量子コンピュータに関する研究に幅広く興味をもっている。最近は主に、不完全な量子デバイスを用いた誤り耐性量子コンピュータの研究や万能ではない量子計算モデルや近未来的に実現される量子デバイスの古典計算に対する優位性(量子スプレマシー)に関する研究に従事している。