FIT2016 第15回情報科学技術フォーラム 開催日:2016年9月7日(水)~9日(金) 会場:富山大学キャンパス
イベント企画
劣線形 --- ビッグデータ時代を切り開くキーワード
9月7日(水) 15:30-17:30
第2イベント会場(共通教育棟A棟2階A21)
【セッション概要】 ビッグデータの登場によって、その基礎となるアルゴリズム理論に根本的な変革が迫られている。例えば、これまでは多項式時間アルゴリズムならば「速い」アルゴリズムであると考えられてきたが、ペタスケールやそれ以上のビッグデータに対してO(n^2)時間アルゴリズムを直接適用するだけでは、計算資源や実行時間などの点で大きな困難に直面する。少なくとも線形時間、場合によっては劣線形時間や定数時間アルゴリズムが求められている。JST CREST「ビッグデータ時代に向けた革新的アルゴリズム基盤」ではその変革を支える「劣線形時間パラダイム」を提唱し、ビッグデータ用のアルゴリズムとデータ構造、モデリング技法を開発し、ビッグデータ時代に向けた革新的アルゴリズム基盤を構築に挑んでいる。本シンポジウムでは、そのための取り組み、重要課題、基礎技術の紹介をするとともに、議論を通じて、学会員への啓蒙及び、プロジェクトの深化の方向を探る。
司会:宇野 裕之(大阪府立大学 工学研究科 准教授)
【略歴】 1987年京都大学工学部数理工学科卒業。1989年同工学研究科修士課程修了。1992年同工学研究科博士課程退学。大阪府立大学総合科学部助手、カナダ国サイモンフレーザー大学応用科学部コンピュータ科学科客員研究員、大阪府立大学理学系研究科准教授などを経て、現在大阪府立大学大工学研究科准教授。工学博士(京都大学)。主として離散構造を持つ問題とそれを解くアルゴリズムの設計・解析、組合せ最適化、およびそれらの手法の現実問題への適用に関する研究に従事。
15:30-15:50 講演(1) プロジェクト全体とチームA(アルゴリズム班)の紹介
加藤 直樹(関西学院大学 理工学部 情報科学科 教授)
【概要】 ビッグデータの登場によって、その基礎となるアルゴリズム理論に根本的な変革が迫られている。例えば、これまでは多項式時間アルゴリズムならば「速い」アルゴリズムであると考えられてきたが、ペタスケールやそれ以上のビッグデータに対してO(n^2)時間アルゴリズムを直接適用するだけでは、計算資源や実行時間などの点で大きな困難に直面する。少なくとも線形時間、場合によっては劣線形時間や定数時間アルゴリズムが求められている。JST CREST「ビッグデータ時代に向けた革新的アルゴリズム基盤」ではその変革を支える「劣線形時間パラダイム」を提唱し、ビッグデータ用のアルゴリズムとデータ構造、モデリング技法を開発し、ビッグデータ時代に向けた革新的アルゴリズム基盤を構築に挑んでいる。本講演では、2年前からおこなってきた研究の全体概要を紹介するとともに、私がリーダーを務めている「劣線形アルゴリズムグループ」の活動状況を紹介する。とくに、定数時間アルゴリズムの構築と実装、避難計画問題への取り組み、組合せ剛性理論に基づくたんぱく質機能解析の3つの具体的な研究についてご紹介する。
【略歴】 1973年京大・工・数理卒。1977年同大学院博士課程中退。同年大阪成人病センター勤務。1981年神戸商科大・管理科学・講師。1991年同教授。1997年京大工学研究科建築学専攻教授。2015年関西学院大・理工学部教授、組合せ最適化、計算幾何学の研究に従事。2000年Hao Wang Award受賞。著書「数理計画法」、「データマイニングとその応用」など。
15:50-16:00 講演(2) チームD(データ構造班)の紹介
渋谷 哲朗(東京大学 准教授)
【概要】 様々な分野における技術革新によって、データば爆発的に増え続け、分野によってはムーアの法則をはるかに超える速度でデータが増え、それらを処理することが増々困難となっている。今、そのようなムーアの法則を超える速度で増えていく巨大なデータを扱うための、劣線形時間や劣線形空間での処理を可能とするようなデータ構造が求められている。チームDでは、そのような劣線形データ構造という新たな研究分野を開拓することによって、ビッグデータ研究における新たなパラダイム創出を狙う。
【略歴】 1997年東京大学理学系研究科情報科学研究科修士課程修了。博士(理学)。日本アイ・ビー・エム(株)東京基礎研究所研究員、東京大学医科学研究所講師を経て2009年より同准教授。第3回マイクロソフトリサーチ日本情報学研究賞、第10回府内学術賞等受賞。バイオインフォマティクス・アルゴリズムの研究に従事。
16:00-16:10 講演(3) チームM(モデリング班)の紹介
安田 宗樹(山形大学 大学院理工学研究科 准教授)
【概要】 モデリング班は、統計力学の中で古来から発展してきている物理理論と最新のデータサイエンス技術である機械学習理論との有機的融合を図り、ビッグデータに対する劣線形モデリング理論と計算アルゴリズム技術の確立を目指している。本講演では、これまでのモデリング班の研究成果とこれからの見通しについて紹介する。
【略歴】 2003年東北大学工学部卒業。2008年東北大学大学院情報科学博士課程修了。博士(情報科学)。同年東北大学大学院情報科学助教。2013年山形大学大学院理工学研究科准教授(現職)。博士(情報学)。データマイニング、機械学習、情報統計力学の研究に従事。
16:10-16:30 講演(4) Theoretical computer science for data science
徳山 豪(東北大学 教授)
【概要】 データサイエンスにおける理論計算科学のアプローチを紹介し、列挙やデータ圧縮などを中心に、特に日本における近年の技術開発について講演する。 
【略歴】 1985年東京大学大学院理学系研究科数学専攻博士課程修了。1986年日本アイ・ビー・エム(株)入社、東京基礎研究所研究員。1999年東北大学大学院情報科学研究科教授、現在に至る。2014年東北大学大学院情報科学研究科研究科長 現職。その間、IBM T. J. Watson 研究所リサーチスタッフメンバー、東京大学数理科学研究科連携特任教授、京都大学数理解析研究所客員教授、国立情報学研究所客員教授。情報処理学会フェロー、電子情報通信学会フェロー。IBM科学賞、船井情報科学振興賞、情報処理学会研究賞、同ベストオーサー賞等受賞。
16:30-16:50 講演(5) 避難計画問題へのアルゴリズム技術の適用
瀧澤 重志(大阪市立大学 工学研究科 准教授)
【略歴】 1995年神戸大学工学部建築学科卒業。1997年神戸大学自然科学研究科博士課程修了。1997年神戸大学工学部建設学科助手。2001年博士(工学)。2003年京都大学大学院工学研究科建築学専攻助手、2007年同助教。2013年より現職。専門は建築情報学、空間情報解析、離散アルゴリズム応用、避難計画。
16:50-17:10 講演(6) ストリームデータ圧縮の理論と応用
坂本 比呂志(九州工業大学 大学院情報工学研究院知能情報工学研究系 教授)
【概要】 ビッグデータ時代の到来によってデータ圧縮の必要性がますます高まっている。特に、圧縮データを復号することなく様々な処理を可能にする仕組みが次々に開発され、幅広い用途に利用されている。加えて、データをすべて読み込むことなく逐次的に入力列を処理しながら最適な圧縮を行うストリーム圧縮と合わせることでこれらの技術の拡張性を飛躍的に高めることができる。このストリームデータ圧縮に関する最新のアルゴリズムとその応用例を紹介する。
【略歴】 1999年九州大学大学院システム情報科学研究院博士後期課程修了。博士(理学)。1996年学振特別研究員、1999年九州大学大学院システム情報科学研究院助手、2003年九州工業大学大学院情報工学研究院助教授、2009年JSTさきがけ研究員(兼任)を経て、2013年より同教授。データ圧縮アルゴリズムとその応用研究に従事。
17:10-17:30 講演(7) 誰がカンニングを見たか〜大規模データの本質を抽出するスパース性〜
大関 真之(京都大学 大学院情報学研究科システム科学専攻適応システム論分野 助教)
【概要】 「大関さん、カンニングで新聞に載っていましたよ。」まるで犯人扱いである。「ベトナムのカンニング事情についてお聞かせください。」私はカンニングの専門家でもなんでもない。即座にお断りをせざるを得なかった。京都大学がカンニングの検出技術を開発した、というニュースを目にした方々もいるだろう。「カンニング」は日本の健全な教育環境においては稀である。これを「スパース性」を持つ相関と捉えて、近年のビッグデータ解析に対する方法論として重要な鍵を握るスパースモデリング技術を利用することで「カンニング」を検出する技術を開発した。わかりやすい事例として興味を持っていただければ、スパースモデリングの力強い可能性を感じていただけることだろう。
【略歴】 2008年東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程修了。2010年から現職である京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教。専門分野は統計力学、量子力学を利用した機械学習、原理的解明と革新的手法の開発を目指した理論研究、スパースモデリングを利用した実社会に向けた応用技術の開発。2011年日本物理学会若手奨励賞、2016年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。