イベント企画

データ活用型科学の将来展望
9月6日(木) 9:40-12:00
第2イベント会場(西館 B1F マルチメディアホール)
【セッション概要】 半導体技術やセンサー技術の急速な発展は、社会の様々な領域において膨大なデータを生み出している。そして“ビッグ・データ”というキーワードが様々な所から聞こえるようになった。世界に分散して存在するデータを活用することが科学のさらなる発展に繋がるということは、既に10年ほど前から認識され、測定データのオンラインデータベース化、さらにはその共有化基盤を作成する動きが高まっている。本セッションでは、世界のデータ共有を進める最先端の一つである天文学分野を例にとり、情報技術活用の背景、技術的現状と課題、またICSUが開始した世界データシステム(WDS)も含めたデータ活用科学の将来を俯瞰する。
司会: 岩田 修一(事業構想大学院大学 教授)
【略歴】 1970年より合金、材料、人工物、核燃料、環境を対象にデータ駆動型設計の研究を続け、あわせて科学技術データの共有と活用について運動を行っている。東京大学工学部原子力工学科、同人工物工学研究センター、同新領域創成科学研究科教授を経て、現事業構想大学院大学教授。東京大学名誉教授。CODATA Former President, Editor-in-Chief of Data Science Journal.
9:40-10:25 講演-1 膨大なデータを取得する天文サーベイ観測
岡村 定矩(法政大学理工学部創生科学科 教授)
【講演概要】 天体が放射するガンマ線から電波に至るあらゆる波長の電磁波が、宇宙から地球に届いている。地上で観測できるのはこのうち可視光と近赤外線の一部、及び電波である。それ以外の電磁波を観測するには人工衛星などで地球大気の外に出る必要がある。すべての波長にわたって高い空間分解能の観測を行なうことは、天文学の究極の目標の一つである。20世紀終わりから現在までの約20年間に天文観測技術はまさに飛躍的な進歩を遂げた。可視光天文学においては、1980年代に写真に取って代わったCCD検出器が、素子の大型化と多数の素子を並べるモザイクCCDの技術によりカメラを大きく進化させた。波長の長い電波で高い分解能を得るためには干渉計が用いられている。スペースから行なわれるX線や赤外線観測の空間分解能は地上からの観測より格段に低かったが、この10年あまりで地上からの可視光観測の分解能に匹敵あるいはそれを凌ぐまでになった。この講演では、広い天域を観測する天文サーベイ観測の歴史と現状を概観し、その大量データが天文学をいかに進歩させたかについてお話しする。
【略歴】 1948年山口県生まれ。1970年東京大学理学部天文学科卒業、1976年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。1978年東京大学助手(東京天文台木曽観測所)、以後同助教授、同理学系研究科教授、同理学系研究科長・理学部長、同理事・副学長などを経て2012年より現職。天体画像処理システムの開発から始めて、銀河天文学と観測的宇宙論の研究に従事し現在に至る。PIとしてすばる望遠鏡の主焦点広視野カメラSuprime-Camの開発を行った。
10:25-11:10 講演-2 ヴァーチャル天文台を実現する技術とサイエンス
白崎 裕治(国立天文台天文データセンター 助教)
【講演概要】 世界中の天文データをひとつの巨大な仮想データベースとしてアクセス可能にする、ヴァーチャル天文台国際プロジェクトが2002年より開始されている。2012年7月現在、日本を含めた20の国と国際機関が国際ヴァーチャル天文台連合に参加し、データベースの公開・アクセス方法の標準化作業、それに準拠したデータサービスの構築、そして利用者向けのポータルサイトやデスクトップアプリケーションの開発を進めている。標準化作業については、主要な部分についてはほぼ完成しており、さまざまなデータがヴァーチャル天文台経由で取得可能となってきている。ヴァーチャル天文台を利用した天文学研究も徐々に成果を上げ始めており、従来の方法では実施が困難であった種類の研究も行われつつあり、あらたな天文学上の発見が期待される。
本講演では、ヴァーチャル天文台で利用されている情報技術や各国のヴァーチャル天文台プロジェクトによるデータサービス等の紹介をを行い、それらの利用により天文学の研究において今後どのような進展が期待されるのかを議論する。
【略歴】 1997年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。理化学研究所 奨励研究員、科学技術振興事業団 科学技術特別研究員、国立天文台 科学研究員などを経て、2004年より現職。
11:10-11:55 講演-3 データ活用型科学
大石 雅寿(国立天文台天文データセンター 准教授)
【講演概要】 データ活用型科学は第4のパラダイムであると言われている。実験、理論、シミュレーションに続く、21世紀の新しい研究手法と期待されているからだ。様々な科学分野では、ディジタル機器を通じたデータ取得、コンピュータ処理が当然のことのように行われ、扱うデータが爆発的に増加している。一方、爆発する大量データをいかにして管理・活用し、また、その中から有用な知見を引き出すのか、が社会の大きな課題となってきた。オバマ大統領がその演説で述べた "Big Data" は、まさに、そのような背景を踏まえている。
講演では、データ活用科学を巡る国際情勢をご紹介すると共に、天文学などにおける例を紹介し、そして、データ活用科学の発展に必要と思われる要素やその将来展望について述べる。
【略歴】 1985年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。1998年国立天文台天文学データ解析計算センター助教授を経て、2007年より現職。2005年から2006年 国際ヴァーチャル天文台連合chairman、2009年より国際天文学連合第5委員会(天文データ)プレジデント。電波天文観測により多数の星間分子を発見すると共に、大量の天文データを活用する研究手法の開拓に従事している。