イベント企画
生体・感覚情報計測技術の基礎
9月5日(水) 9:30-12:00
第3イベント会場(東館 1F E105)
【セッション概要】 近年、脳機能をはじめとした神経活動の計測技術やコンピュータの発展により、人間の認知やBMIに関連する研究が急速に発展している。さらに、モバイル機器やゲーム機の普及により各種センサーが比較的手軽に入手できるようになり、人間の行動計測研究の可能性が急速に拡大している。本企画では生体・感覚情報計測技術を利用した今日的な研究に触れることにより、聴講者の研究の方法論のバリエーションを拡充することを目的として、若手・中堅の研究者にご講演いただく。具体的には、人間の身体運動・生理活動などの計測および分析技術を利用した認知心理学的研究やヒューマンインターフェース開発などの応用的研究を、計測や分析技術の基礎的な側面をふまえつつ最先端の研究の方向が感じ取れるような内容とする。
司会: 金子 寛彦(東京工業大学大学院総合理工学研究科 物理情報システム専攻 准教授)
【略歴】 1992年、東京工業大学大学院博士課程修了。同年、York大学(Canada) 研究員。1995年、ATR人間情報通信研究所研究員。2000年、東京工業大学助教授。現在、同准教授。現在に至る。心理物理学、特に人間の空間認識に関する研究に従事。博士(工学)。
9:30-9:40 趣旨説明
9:40-10:10 講演-1 3D観察時の眼球運動
水科 晴樹(情報通信研究機構ユニバーサルコミュニケーション研究所 研究員)
【講演概要】 人間は3次元空間内のさまざまな場所にある対象物に自由に視線を向けて、そこから詳細な視覚情報を取り込むことができる。これを実現しているのが眼球運動であり、人間の視覚にとって欠かせない機能である。また眼の動きには、バランス感覚を司る前庭系の状態や覚醒状態、注意の状態や情報収集の方略など、人間の内部状態に関するさまざまな情報が反映されている。眼球運動のこのような側面に対する関心の高まりや、手軽に扱える計測手法の普及に後押しされて、研究に眼球運動の計測を利用する機会が増えているが、その原理や特性を知ることで、より信頼性の高いデータを効率的に集めることが可能になる。本講演では、いくつかの眼球運動計測手法の原理やその特徴について解説し、目的に即した適切な計測手法の選び方や計測における注意点について述べる。また眼球運動計測を利用した研究の一例として、3D映像を見ているときの眼球運動や眼の焦点調節の機能の測定について、最近行った研究成果を紹介する。
【略歴】 2003年東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。同年高知工科大学情報システム工学科教育講師。2004年ヨーク大学心理学科博士研究員。2007年東京工業大学産学官連携研究員。2009年(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)研究員。2012年より現職。視覚心理物理学、立体映像の生体影響に関する研究に従事。日本視覚学会、映像情報メディア学会、電子情報通信学会、日本光学会、日本感性工学会各会員。博士(工学)。
10:10-10:40 講演-2 視覚情報処理ストラテジーの可視化:classification imageを用いた自閉症者と定型発達者の顔認知の比較
永井 聖剛(産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門 主任研究員)
【講演概要】 Classification image(CI)法は課題遂行中の視覚情報処理ストラテジーを詳細に可視化できる利点を持つ。例えば、顔画像による個人弁別課題を課すとき、「どの部分にどれくらい強く影響されるか」をピクセル単位で明らかにすることができる。近年は2次元空間刺激に加え、1次元空間刺激、時空間刺激など様々な刺激属性に対応したCIが開発され、顔認知、主観的輪郭、テクスチャ知覚など多様な研究トピックにおいて従来の実験手法(閾値、正答率等)では検討不可能であった視覚情報処理の諸側面を明らかにしてきた。本発表ではCIの測定原理、試行数削減技術の解説に加え、顔情報処理ストラテジーに関する研究を報告する。先行研究では定型発達者および自閉症者の顔情報処理ストラテジーには質的な違いがある(定型発達者は目、自閉症者は口領域を利用)と報告されてきたが、CI法を用い、従来研究からは予想外の自閉症者特有のストラテジーを発見(額を利用)し、また自閉症者の半数は定型発達者と同様のストラテジー(目眉領域)を示すことを明らかにした。
【略歴】 関西学院大学文学研究科心理学専攻修了。京都大学情報学研究科ポスドク研究員、マクマスタ大学心理学部客員研究員を経て、2005年より産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門研究員、2010年より現職。近年は個人のコミュニケーションスキルや感情と認知情報処理の関係など、動作インタラクションなどさまざまな研究に取り組む一方、自動車会社、化粧品会社など、企業との共同研究も数多く展開している。
10:40-11:10 講演-3 乳児期の行動および脳機能計測
渡辺 はま(東京大学大学院教育学研究科 特任准教授)
【講演概要】 生後1年未満の乳児の知覚・認知・運動を含む行動発達および脳機能の発達を統合的に理解するために、どのような方法が可能かについて、これまでの取り組みを紹介しながら考える。特に、健康な乳児(すなわち臨床的な検査等の必要性がない乳児)の情報を得ることは、方法論的あるいは倫理的制約があるが、その中で行うことができる計測方法と、その結果得られた知見について議論する。三次元動作解析装置を用いた運動計測、眼球運動装置を用いた視線計測、近赤外分光法(NIRS)を用いた脳機能計測等について紹介し、今後の乳児の行動・脳機能研究の方向性について議論する機会としたい。
【略歴】 東京大学大学院教育学研究科身体教育学コース特任准教授。2001年名古屋大学大学院人間情報学研究科博士後期課程 満期退学。博士(学術)(名古屋大学、2002年)。日本学術振興会特別研究員(PD)、科学技術振興機構研究員、日本学術振興会海外特別研究員(ウプサラ大学)を経て、2009年より現職。乳児の発達行動科学・発達脳科学の研究に従事。日本心理学会会員。2012年日本心理学会国際賞(奨励賞)受賞。
11:10-11:40 講演-4 身体性入力としてのベクション
妹尾 武治(九州大学芸術工学研究院 日本学術振興会特別研究員SPD)
【講演概要】 広域視野に一様な運動刺激が呈示されると、それを見ている観察者は、刺激の運動方向と反対方向に、自己身体の移動を感じる。この錯覚のことをベクションと呼ぶ。ベクションについて、これまでの研究を概観し、著者が行った新しい研究についても、紹介を行う。ベクションは錯覚的な自己身体の移動だが、実際のリアルな身体性の入力としての役割を十分に果たす事が出来る。例えば、ベクションが生起している間に、錯覚的に自己身体が軽くなったり、重くなったりすることを我々は実験で示した。さらに、空腹時には、ベクションが強くなることを明らかにした。これらは、リアルな身体の変調がベクションに与える影響であり、ベクションがリアルな身体の変調を起こす例でもある。これに加えて、ベクションが実際の身体性入力となりうる例をさらに紹介したい。
【略歴】 妹尾 武治(せのお たけはる/視覚心理学者/学術研究員)
なぜものが見えるのか、どのようにものが見えるのか?について、実験心理学からの検討を行う。2009年に東京大学人文社会系研究院の博士課程を修了し(心理学)。2007年より、東京大学インテリジェント•モデリング•ラボラトリーにて、特任研究員。2008年より、九州大学芸術工学研究院で学術研究員。現在は、日本学術振興会の特別研究員(SPD)及び、University of Wollongong(オーストラリア)で客員研究員として働く。専門は錯覚的な自己身体の移動感覚(ベクション)。
11:40-12:00 総合討論