イベント企画

e-サイエンス:超大規模実問題に挑戦するアルゴリズムと計算技術
9月4日(火) 13:00-15:00
第2イベント会場(西館 B1F マルチメディアホール)
【セッション概要】 従来手法では解決不可能な大規模問題を数理解析に基づく革新的なアルゴリズムによって解決することを目的とし、「e-サイエンスに向けた革新的アルゴリズム基盤」は、学術会議の大型施設計画・大規模研究計画マスタープラン 2011の計画の一つとして採用された。本計画は、物理、化学、生物などの科学、土木、建築、機械などの工学、交通、経済・ 経営の諸分野や地球規模の諸問題(環境、エネルギー、バイオ)及び突発的事態(防災、避難及び復興 計画)への具体的かつ現実的な対応を目標とし、この目標達成のために、アルゴリズム科学と実問題の数理的モデル化による解決を目指す共同研究拠点を作ることを目指している。本シンポジウムでは、そのための取り組み、重要課題、基礎技術を紹介し、議論を通じて、プロジェクトの深化の方向を探るとともに、学会員の啓蒙ならびに一般参加者への広報をはかる。
司会: 伊藤 大雄(電気通信大学大学院情報理工学研究科情報・通信工学専攻 教授)
【略歴】 1985年京大・工・数理卒。87年大学院修士課程了。95年京都大学博士(工)取得。NTT研究所、豊橋技術科学大学、京都大学を経て2012年より電気通信大学大学院情報理工学研究科、教授。離散アルゴリズム、離散数学、娯楽数学の研究に従事。著書「パズル・ゲームで楽しむ数学」森北出版、「ネットワーク設計理論」(岩波書店、共著)、「離散数学のすすめ」(現代数学社、共編著)等。電子情報通信学会、日本OR学会、情報処理学会、EATCS会員。
13:00-13:03 代表者挨拶
加藤 直樹(京都大学工学研究科 教授)
【略歴】 1973年京都大学工学部卒業. 京都大学工学研究科院博士課程中退. 同年大阪成人病センター勤務. 昭56年神戸商科大学商経学部管理科学科講師。助教授、教授を経て1997年より現職. 建築情報システム学、計算幾何学、組合せ最適化の研究に従事し、最近はとくに組合せ剛性理論、最適避難計画に興味を持っている。1994年情報処理学会山下記念研究賞受賞、2008年情報処理学会フェロー。情報処理学会、電子情報通信学会、ACM、建築学会会員。
13:04-13:26 講演-1 ビッグデータ時代における科学的課題への新たなアプローチ法
西尾 章治郎(大阪大学大学院情報科学研究科マルチメディア工学専攻 教授)
【講演概要】 高度情報化社会の進展に伴い、デジタルデータが爆発的に増大するビッグデータ(情報爆発)時代が到来した。世界のデジタルデータの量は、民間調査機関の推計によれば、2020 年には、約35ゼタバイト(2010年度時の約35倍)へ拡大する見込みである。このため、ビッグデータを効果的・効率的に収集・集約・解析し、革新的な科学的手法により知識発見や新たな価値を創造することの重要性が、世界的に認識されてきている。第一の科学的手法である経験科学(実験)、第二の科学的手法である理論科学、第三の科学的手法である計算科学(シミュレーション)と並び、e-サイエンス(データ中心科学)は第四の科学的手法と言われ、ビッグデータ時代における科学の新たな地平を拓く方法論として注目されている。本講演では、ビックデータ時代における科学的課題への新たなアプローチ法としてのe-サイエンスについて概説する。特に、計算科学とe-サイエンスにおけるデータ処理の相違などを論じつつ、この新たなアプローチにおける技術課題と同時に革新的アルゴリズムの重要性について述べる。
【略歴】 昭和50年京都大学工学部数理工学科卒業。昭和55年京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。工学博士。京都大学助手、大阪大学助教授を経て、平成4年大阪大学工学部教授、平成14年大学院情報科学研究科教授となり、現在に至る。その間、大阪大学サイバーメディアセンター長、大学院情報科学研究科長、理事・副学長を歴任。データベースシステムにおけるデータおよび知識管理に関する研究に従事し、紫綬褒章、立石賞功績賞、電子通信学会業績賞、日本データベース学会功労賞、情報処理学会功績賞などを授与される。日本学術会議会員。IEEE、情報処理学会、電子情報通信学会フェロー。
13:27-13:49 講演-2 e-サイエンスに向けた革新的アルゴリズム基盤プロジェクトの紹介
加藤 直樹(京都大学工学研究科 教授)
【講演概要】 学術会議が昨年9月に出した「学術の大型施設計画・大規模研究計画 マスタープラン 2011」に採択された大規模研究計画「e-サイエンスに向けた革新的アルゴリズム基盤について、その概要をお話しします。本研究計画は、従来手法では解決不可能な大規模問題を数理解析に基づく革新的なアルゴリズムによって解決することを目指すものです。科学、工学の諸問題、環境、エネルギー、バイオなどの地球規模の問題及び防災、避難などの突発的事態への対応を含む多様な問題を対象とします。
この目標に向けて、共同研究拠点を作り、アルゴリズムの設計と応用の科学的体系化を構築し、ソフトウェア実装技術やスーパーコンピューティング技術を融合した問題解決手法の開発と標準化を行い、諸分野に提供する体制を確立します。これによって、コンピュータの利用を行うすべての分野での学術の発展を加速し、文明の進歩の創生に寄与します。以上の内容をできるだけわかりやすくご説明いたします。
【略歴】 1973年京都大学工学部卒業. 京都大学工学研究科院博士課程中退. 同年大阪成人病センター勤務. 昭56年神戸商科大学商経学部管理科学科講師。助教授、教授を経て1997年より現職. 建築情報システム学、計算幾何学、組合せ最適化の研究に従事し、最近はとくに組合せ剛性理論、最適避難計画に興味を持っている。1994年情報処理学会山下記念研究賞受賞、2008年情報処理学会フェロー。情報処理学会、電子情報通信学会、ACM、建築学会会員。
13:51-14:13 講演-3 東日本大震災後、節電時の首都圏電車ネットワーク混雑シミュレーション
田口 東(中央大学工学部情報工学科 教授)
【講演概要】 首都圏電車路線全体を対象として、列車ごとの運行、乗客の乗降、乗り換え、時刻を明示的にシミュレートするモデルを作成し、朝短時間生ずるラッシュに対して、電車利用のソフト的な改善策によって混雑緩和を目指す場合に、その効果を精度よく評価できる方法を提案する。東急田園都市線の急行格下げ、震災後節電時の計画運転に関する提案はその応用である。
電車の混雑を和らげる決め手は分散乗車である。ここでは、ネットワーク全体を対象として、分散乗車の詳細なシミュレーションを行い、その効果が実現目標として提示できること、混雑に著しい偏りが生じてないかを明示できることを示す。各事業者が営業する範囲内で閉じた計画を立てたのでは、電車混雑への影響が十分把握できず、利用者に不公平感が生ずる可能性があること、したがって、事業者ごとの電力削減目標を基にした運転計画を総合してネットワーク全体の混雑を計算し、最初の削減目標を調整するというプロセスが必要であると考えている。
【略歴】 1951年千葉県生まれ。1974年東京大学工学部卒業(工学博士)。三菱重工業(株)勤務の後、東京大学、山梨大学勤務を経て、1992年中央大学工学部教授、現在にいたる。その間、コーネル大学在学研究、理工学部長、横浜山手女子学園理事長。人の移動を数理モデルで表現することに関心を持っている。プログラミング大好き人。
14:14-14:35 講演-4 パーソナルゲノム時代に必要とされる情報科学とスーパーコンピュータ
井元 清哉(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 准教授)
【講演概要】 最先端シークエンス技術の発展に伴い、来年にも個人のゲノムが1000ドルのコスト、1日で得られるようになります。このパーソナルゲノムを解釈した情報に基づく個別化医療が米国ではすでに始まっています。このヒトゲノムデータを解釈するためのデータ解析には、膨大な計算リソースが必要となります。我々は、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターに設置されたスーパーコンピュータ(ピーク性能225Tera Flops、4PB高速ストレージ)を駆使し、情報解析という立場から医学者・生物学者らと密に連携し、このパーソナルゲノム医療を進めるための研究を行っています。本報告では、パーソナルゲノム医療の現状と取り組むべき課題について話をさせていただきます。
【略歴】 2001年九州大学大学院数理学研究科博士課程修了、博士(数理学)。東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター博士研究員、助手、助教授を経て07年より准教授。ヒトゲノムデータなど高次元大規模データから知識発見・予測を行うための統計学理論、方法論の研究に従事。日本バイオインフォマティクス学会、日本統計学会、応用統計学会、日本計量生物学会 各会員。
14:36-14:58 講演-5 次世代スパコン技術を用いた超大規模グラフ解析と実社会への応用
藤澤 克樹(中央大学理工学部経営システム工学科 教授)
【講演概要】 新しいスーパーコンピュータの応用として大規模なグラフ解析やデータ処理が注目を集めている。グラフ解析の応用分野としては大規模災害等で突発的に発生しリアルタイムに状況が変化し早急な解決が望まれる諸問題に対する対応(避難誘導計画等)や社会公共政策や企業経営等のためソーシャル・ネットワーク等の大規模データの有効活用等が想定されているが、非常に計算量やデータ量さらに電力使用量などの規模が大きく従来の手法では処理が困難である。本講演ではポストペタスケールスーパーコンピュータ(次世代スパコン)における最重要カーネルのひとつである超大規模グラフ処理を実現するためのJST CREST プロジェクトを紹介する。具体的には大規模グラフデータに対するリアルタイムストリーミング処理、計算量とデータ移動量を考慮したグラフ最適化アルゴリズム、ストレージの階層性を考慮した大規模グラフデータストアなどの研究が含まれる。
【略歴】 1970年山梨県生まれ。1993年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。1998年東京工業大学大学院情報理工学研究科数理・計算科学専攻博士課程修了 : 博士(理学)。同年から京都大学大学院工学研究科建築学専攻助手などを経て, 2012年中央大学理工学部経営システム工学科教授。大規模最適化問題に対するアルゴリズムやソフトウェアの研究に従事し、半正定値計画問題(SDP)の超大規模計算に対する世界記録保持者。2011年10月よりJST CREST ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤:研究代表者。