解説

アウトカムズ評価

教育プログラム認定において,教育プログラムが認定に値するかどうかの審査を,その教育プログラム修了者が実際に修得した知識・能力に基づいて行うことをいう。

なぜアウトカムズ評価なのか

教育プログラムの評価を行おうとすると,とかく,そのカリキュラムがどうなっているか,どんな内容の科目を設けているか,時間配分や単位数配分がどうなっているか,という教育プログラム受講者に対する「インプット」だけに目を奪われてしまいがちである。どんな資格の教員で教員団が構成されているのか,どれほどの冊数の図書施設があるのか,どれほどの広さの実験室があるのか,などの,数値化しやすい基準だけに頼りがちである。

しかしながら,こうした条件が同等であったとしても,二つの教育プログラムの修了生が実際に身につける知識・能力が同等になるわけではない。個々の科目での教育をどのように行っているか,受講生の意欲を引き出し個々の能力を伸ばしていくためのシステム的な工夫をどのようにおこなっているのか,教育プログラムの成果を自ら評価し改善していく努力をどのように積み重ねてきているのか,といった教育プログラムのソフトウェアやシステムの違いが,修了生が実際に修得する知識・能力に大きな違いを生む。

教育プログラムの「成果」は,その修了生である。それならば,教育プログラムの評価も,その修了生の実力をもって計るのが妥当である。これが「アウトカムズ」評価の基本的な考え方である。

教育プログラムごとの目標設定

教育プログラムを提供する高等教育機関は,それぞれに設立の理念をもち,教育の目的をもつ。したがって,多様な教育プログラムが存在し,そこから多様な修了生が生まれる。そうした多様性は,教育という行為の特徴である。どのような学習・教育目標を設けるか,どのようのカリキュラムを用意してその目標が達成できるようにするか,その受講生が目標を達成できるようにどのように指導していくか,などは,まさにその教育機関,その教育プログラムの特色を発揮すべき部分である。

したがって,教育プログラムの認定基準は,各教育機関,教育プログラムの特色を最大限尊重するものとなっている。直接に,カリキュラムの構成を規定したり,科目や単位数を規定したりすることは一切しない。修了生が身に付けているべき知識・能力についても,具体的に細目までを規定することもない。

修了生が身に付けているべき知識・能力の具体的な目標は,教育プログラムが自ら設定する。審査では,その設定された目標を,実際にすべての修了生が達成しているかどうかを判定する。そのために,審査は,実地に教育機関を訪問して,教育プログラム側が証拠として提示する材料(教科書・教材,試験答案とその採点結果,レポートや卒業論文などの修了生の残した成果など)を検分し,講義や実験などを視察し,インタビュー(教員,在学生,卒業生など)を行うなどの2日にわたる作業が主体となる。

認定基準は大枠を与えるだけ

しかしながら,修了生が身に付けているべき知識・能力の具体的な目標設定を,教育プログラムがまったく恣意的に行えるというのでは,技術者教育プログラムの認定としての意味が失われてしまう。認定は,その認定を受けた教育プログラムを公表することによって,その修了生がその分野での技術業に就くために必要な知識・能力を修得していると社会に知らせるのが目的である。そこで,認定基準には,目標設定に関係づけるべき対象項目が列挙してある。それらの項目は,技術者教育プログラム一般に対するものと,教育プログラムが対象としている技術分野に応じたものとがある。後者は,分野別要件として示されている。

同時に,設定された目標は,全体として,その教育プログラムの対象とする技術分野に対して社会が要請している水準を満足している必要がある。その水準は,単に日本国内での社会的要請によるものだけでなく,国際的な水準とも整合するものでなければならない。こうした水準は,時間とともに変化するし,分野によって違っ てくる。そこで,教育プログラム認定の審査は,当該分野の学協会に設けられた審査委員会が担当し,その委員会が教育機関に審査チームを派遣する仕組みをとっている。ときには,この水準について教育プログラムの主張と審査委員会の主張とが食い違うことも起きる。このときは,両者の間で十分な議論を尽くした上で判定が下される。こうした事例の積み重ねの中で,おのずとこの水準が定まっていく。