No.65
3月11日 9:30-12:00,14:30-17:00
会場:第4イベント会場
イベント司会(午前)
イベント司会(午後)
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講演・パネリスト田中 克己
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午前:大学院人材育成における情報教育 -これからの大学院教育-
情報技術が様々な学術領域の研究に必要となりつつあり,従来の学部中心の全学共通情報教育のみならず,大学院における情報教育の重要性が増している.しかしながら,我が国の大学においては,全学的な大学院共通教育の仕組みが未だ未整備であり,また,各研究科における情報教育の需要も明らかになっていない.
本セッションでは,大学院レベルの共通情報教育について,実際に,各大学でどのような取り組みが行われているかについて事例を示していただきながら,議論を行いたい.
午後:人材育成における情報教育 -ITを活用した教育-
IT環境の広がりにより,学ぶ環境が大きく変化し,いつでもどこでも学習ができるというe-learningや講義映像・教材のアーカイブが広がってきている.
また,LMS等のようにIT技術を利用することによる新しい学習管理環境も構築されつつある.そこで,本セッションでは大学における教育において,ITをどのように活用することにより,効果的な学習環境を作ることができるのかについて,事例を示していただきながら,これからの教育環境を議論したい.
9:30-9:55 講演(1):京都大学における大学院共通情報教育の取り組み
田中 克己
情報技術は,今や社会基盤を実現・維持していくための基盤的技術であるとともに,大規模シミュレーションや大規模情報分析など,学術研究の新しい方法論をも提供する基盤技術になりつつある.また,社会における情報の取り扱い(作法,社会制度,情報セキュリティ,情報倫理,知財など)に関する教育が,従来,大学で十分になされておらず,さまざまな問題を引き起こしつつある.京都大学では平成21年度から,学術研究の方法論を支える情報科学・計算科学,および,社会における情報の取り扱いに関する基礎知識修得を中心に捉えた,大学院における新しい全学共通情報教育を指向して,そのカリキュラムの設計と教育の推進を行っている.また,従来の授業評価アンケートなどの画一的なFDにとらわれず,受講生の予習復習や教員の授業改善のための講義・教材アーカイブの開発整備,コースマネジメントシステムに基づく教員/学生の対話機会の増加など,情報技術を用いた新しい教育支援システム・FDシステムの構築を行っている.ここでは,京都大学におけるこのような大学院共通情報教育の取り組みについて述べる.
9:55-10:20 講演(2):実践IT力を備えた人材育成の取組みと大学院研究科共通教育プログラム
北川 博之
筑波大学大学院システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻では,文部科学省の魅力ある大学院教育イニシアティブ「実践IT力を備えた高度情報学人材育成プログラム」(H18-19),先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム「高度IT人材育成のための実践的ソフトウェア開発専修プログラム」(H18-21),組織的大学院教育改革推進プログラム「ICTソリューション・アーキテクト育成推進プログラム」(H20-22)等,実践IT力を備えた人材育成のための一連の取組みを進めてきた.本講演ではその概要を紹介する.併せて,平成20年度から導入された筑波大学における大学院共通教育プログラムの概要についても紹介する.
10:20-10:45 講演(3):大学院GP「大学連合による計算科学の最先端人材育成」の活動報告
賀谷 信幸
本教育プログラムでは,計算科学の分野横断型教育を目指して,いろいろな取組みを行っている.主なものとして,シミュレーション・スクール,e-Content作成,TV会議システムを用いた複数大学同時講義を実験的に開催した.
シミュレーション・スクールでは,「他分野の計算機シミュレーションを学ぼう」,「計算機科学の基礎から高性能シミュレーションへ」,「差分法をマスターしよう」と題して,計算科学で提唱されているSMASHのすべての切り口をテーマにした.
講演では,本教育プログラムでの詳細な教育活動の報告する.
10:45-11:10 講演(4):人文学と情報技術とその教育:京大文学研究科の例から
林 晋
最近のデジタルカメラや媒体の高性能化・低廉化と,WEBアーカイブ技術の進化と普及により,古い文献資料をその主な研究対象とする史学・古典学の研究手段が急速に変わりつつある.たとえば,文書館を訪問し歴史研究者自ら数千枚の資料をほとんどコストゼロで撮影する,現地の図書館・文書館などを訪問することなくネットを通して史料のカラー画像を入手する,データベースで書簡などの所在を瞬時に見つけ出す.10年前には想像するのも難しかったことが現在では容易に行える.人文学研究を妨げていた非本質的な物理的制約が取り除かれつつある.この史料研究の新時代において人文学者が必要とする情報技術の知識はなんだろうか.この問いを主に京大文学研究科での取り組みを通して考える.
11:10-11:35 講演(5):医学研究におけるコンピュータスキルの役割
山田 亮
医学分野において,計算機・データベースを活用することは,基礎医学研究・臨床医学研究・臨床医療のいずれにおいても日常化してきている.また,昨今のゲノム研究をはじめとする大規模データを特徴とする研究成果が蓄積し,それを利用することが多くの医学研究領域において不可欠となっている.このような事情から,基礎的情報学技術の習得の必要性が増大している.しかしながら,医学部教育・医学系大学院教育において,そのようなデータ活用を前提とした教育は制度化されておらず,個々人の努力にゆだねられているのが実情である.このような医学生物学分野において求められている情報学の基礎的技術の高等教育における課題について概観する.
11:35-12:00 全体討論
14:30-14:50 講演(1):携帯端末向けオンライン講義視聴支援システムの開発
中村 聡史
本講演では,京都大学情報教育推進センターにおいて開発を進めている,iPhoneなどのモバイル端末向けのオンライン講義視聴支援システムについて紹介を行う.本システムを利用することで,ユーザは通勤通学途中などの時間を利用して講義の復習を行ったり,自身の講義がどうであったかを見直すことが可能となる.また,本システムを介して学生と教員とのインタラクションを可能とすることにより,学生からの質問に答えたりすることが可能となる.
14:50-15:20 講演(2):アイスタントを活用した全学的FDの取り組み
後藤 尚人,江本 理恵
岩手大学大学教育総合センターでは,平成17年~平成19年度に大学教育センターによる組織的授業改善と教室外学習支援システムの構築」プロジェクトに取り組み,教育支援システム「アイアシスタント」を自主開発して全学規模で運用している.
このような教育支援システムには,BlackboardやMoodleなどのよく知られたシステムがあるが,この「アイアシスタント」の特徴は「日常的な授業改善」を実施する機能を強化したところにある.具体的には,本システムの「シラバス」と「授業記録」という機能を利用することにより,授業実施のPDCAサイクル(授業計画の作成:Plan→授業実施:Do→授業記録:Check→改善策の検討:Action)をWeb上に可視化,共有化することができる.
今回は,このシステムの概要と実際の運用状況について概説する.
15:20-15:50 講演(3):東京大学の教育におけるICT活用の取り組み -MEET, KALSを中心に-
西森 年寿
東京大学における情報通信技術を活用した教育環境整備に取り組むTREE(Todai Redesigning Educational Environment)プロジェクトのうち,授業でのICT活用に関する取組みとして,MEET(大学総合教育研究センター マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門)の成果と,KALS(Komaba Active Learning Studio)の詳細について報告する.MEETでは,Meet eJournalPlus(批判的読解支援ソフト)や,Meet Video Explore(映像クリップ視聴探索支援ソフト)など,タブレットPCを使った大学授業向けのソフトウェアの開発を行った.KALSはICTを活用した協調学習向けの駒場キャンパスの教室である.1~2年生向けの文系・理系・語学授業で,学生参加型の授業が行われている.
15:50-16:20 講演(4):eラーニング専門家をeラーニングで養成する熊本大学大学院教授システム学専攻の取り組み
中野 裕司
熊本大学では,2006年,eラーニング専門家をeラーニングで養成する大学院として,大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻を開設した.本専攻では,教育活動やコース・教材をシステムとしてとらえ,科学的・工学的にアプローチする教育研究分野である教授システム学を,インストラクショナルデザインを中心に,情報技術,マネジメント,知的財産権といった分野を体系的に教育研究する.修了生に求める職務遂行能力(コンピテンシー)に基づくカリキュラム設計や,LMS上の各種機能を中心に,学習ポータル,eポートフォリオ,Web会議,VOD等を活用した遠隔eラーニングによる授業や研究指導等に関して報告する.
16:20-16:40 講演(5):京都大学オープンコースウェア
土佐 尚子
2005年から始まった京都大学 OCWは,学内で実際に利用している講義教材をインターネットで公開するプロジェクトです.学内の学生,教職員,他大学の学生,関連学会の研究者,京都大学を志願する高校生,さらなる学習を志す社会人など,あらゆる方々に京都大学の講義内容を知っていただき,門戸を広げることを目的としています.また,世界へ向けて,京都大学のビジビリティを高め,日本の文化・伝統を発信するために日本語でも積極的にアピールしていきます.OCWは,人類の知的資産の貢献と共有を目指して,世界各国とのコミュニケーションを高め,国際交流の推進を目標にしています.
16:40-17:00 全体討論
中村 聡史
京都大学大学院情報学研究科特定准教授.2004年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了.情報通信研究機構を経て,現職.ウェブサーチとインタラクション,ライフログ,エンターテイメントコンピューティングなどの研究に従事.
稲葉 利江子
京都大学大学院情報学研究科特定講師.2003年日本女子大学理学研究科博士後期課程修了後,文部科学省メディア教育開発センター助手,文部科学省在外研究員制度にて,米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員,ベルギー・ルーベンカトリック大学客員研究員.2006年独立行政法人情報通信研究機構 専攻研究員を経て,現職.博士(理学).
田中 克己
昭和49年(1974年)京都大学工学部情報工学科卒業,昭和51年(1976年)同大学院修士課程修了,昭和53年(1978年)同博士後期課程中退,昭和54年(1979年)神戸大学教養部助手,昭和61年(1986年)神戸大学工学部助教授,平成6年(1994年)神戸大学工学部教授,平成13年(2001年)より京都大学大学院情報学研究科教授(社会情報学専攻情報図書館学分野),現在に至る.京大・工博.主にデータベース,マルチメディア情報システム,Web情報検索等の研究に従事.京都大学情報学研究科副研究科長,グローバルCOEプログラム「知識循環社会のための情報学教育研究拠点」リーダ,情報処理学会フェロー,日本データベース学会副会長,日本学術会議連携会員.
北川 博之
1980年東京大学理学系研究科修士課程修了.日本電気(株)勤務の後,1988年より筑波大学勤務.現在,筑波大学大学院システム情報工学研究科教授(コンピュータサイエンス専攻長),兼同大学計算科学研究センター教授.理学博士(東京大学).研究分野は,データベース,データ工学.文部科学省・先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム,魅力ある大学院教育イニシアティブ,大学院教育改革支援プログラム等の取組担当者として,実践的IT人材育成に従事.情報処理学会フェロー,電子情報通信学会フェロー,日本データベース学会理事.
賀谷 信幸
昭和48年京都大学工学部電気工学科卒業,昭和50年京都大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了,工学博士(京都大学).昭和50年神戸大学工学部助手,神戸大学工学部助教授,宇宙科学研究所併任助教授,神戸大学工学部教授(現在に至る).専門は,マイクロ波無線送電と宇宙太陽発電衛星の技術開発
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林 晋
昭和51年立教大学理学部数学科卒業.昭和56年筑波大学大学院数学研究科修了.昭和57年東京都立工科短期大学専任講師.昭和59年京都大学数理解析研究所助手.平成元年龍谷大学理工学部数理情報学科助教授.平成4年龍谷大学理工学部数理情報学科教授.平成7年神戸大学工学部知能情報工学科教授.平成17年京都大学教授大学院文学研究科教授
.記号論理学からソフトウェア工学などを経て,科学技術政策研究,歴史学まで幅広く活動してきた.現在の主な研究テーマは京都学派田辺元の思想史.
山田 亮
1992年3月 東京大学医学部医学科卒業.2000年4月 理化学研究所遺伝子多型研究センター関節リウマチ関連遺伝子研究チーム研究員.2005年4月 京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター疾患ゲノム疫学分野 助教授.2007年4月 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターゲノム機能解析分野 准教授.2009年8月 京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター統計遺伝学分野 教授
後藤 尚人
昭和63年神戸大学大学院文化学研究科博士課程単位取得退学.昭和63年神戸大学大学院文化学研究科助手,平成3年岩手大学人文社会科学部講師,平成6年同大人文社会科学部助教授,平成19年同大人文社会科学部准教授,平成21年同大人文社会科学部教授.現在に至る.記号論的文学理論研究および高等教育機関におけるICTを活用した教育改善業務に従事.日本フランス語フランス文学会,日本記号学会会員.国立大学協会教育・研究委員会専門委員.
江本 理恵
平成14年東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程単位取得退学.平成17年岩手大学大学教育センター講師.平成20年岩手大学大学教育総合センター准教授.現在に至る.現在,高等教育機関における教育改善方策の研究に従事.日本教育工学会,教育システム情報学会,電子通信情報学会,大学教育学会会員.
西森 年寿
平成14年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学後,文部科学省メディア教育開発センター研究開発部助手,平成18年東京大学大学総合教育研究センターマイクロソフト先進教育環境寄附研究部門客員助教授を経て,平成19年より東京大学教養学部附属教養教育開発機構特任准教授.博士(人間科学).
中野 裕司
名古屋大学教養部・情報文化学部にて物理やICT活用教育システムに関する研究・研究に従事し,2002年より熊本大学総合情報基盤センター教授.以降,LMS-SIS連携(2004年)やSSO・大学ポータル(2006年)の全学導入,大学院教授システム学専攻(2006年)やeラーニング推進機構(2007年)の創設等,大学規模でeラーニングの研究・実践に取り組む.理学博士(九州大学),1959年生.
土佐 尚子
京都大学学術情報メディアセンター教授.文化とコンピュータのコンテンツ研究に従事.主な著書に「カルチュラルコンピューティング」(NTT出版)がある.京都大学オープンコースウェア編集長.1995~2001年ATR知能映像通信研究所客員研究員.2001~2003年JST「相互作用と賢さ」領域研究に従事.2002年~2004年 マサチューセッツ工科大学建築学部Center
for Advanced Visual Studies fellowを経て現職.2004年ユネスコ主催デジタル文化遺産コンペで2位受賞.工学博士(東京大学).