No.43

CGMの現在と未来:
初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロの切り拓いた世界

3月10日 15:30-17:30

会場:第2イベント会場

講演者 Speaker

イベント司会

写真後藤 真孝
産業技術総合研究所 情報技術研究部門

講演・パネリスト

写真剣持 秀紀
ヤマハ株式会社 サウンドテクノロジー開発センター

写真伊藤 博之
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社

写真戀塚 昭彦
株式会社ドワンゴ 研究開発本部

写真濱野 智史
株式会社日本技芸

概要 Abstract

ヤマハ株式会社のVOCALOID技術に基づいた歌声合成ソフトウェア「初音ミク」を,クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が2007年8月31日に発売して以来,多くの人々が多様な創作活動を繰り広げ,その作品を株式会社ニワンゴ(ドワンゴ)の運営する「ニコニコ動画」上に投稿してきた.そして,ニコニコ動画が持つ「擬似同期型アーキテクチャ」が基盤となり,CGMサイト「ピアプロ」等によるコンテンツ素材の共有も進んだことで,コンテンツの2次,3次創作といった「N次創作」に基づく作品が活発に生み出されている.これは,CGM (Consumer Generated Media) の未来を切り拓く画期的な現象であり,日本は海外に対して圧倒的に優位に立っていると言える.本セッションではこれらを背景に,VOCALOIDの生みの親の剣持氏,ピアプロの生みの親で初音ミク販売元の伊藤氏,ニコニコ動画の生みの親の戀塚氏,擬似同期型アーキテクチャとN次創作の概念の生みの親の濱野氏と共に,CGMの現在と未来を議論する.

プログラム Program

15:30-15:50 講演(1):歌声合成の過去・現在・未来

剣持 秀紀

最近,「初音ミク」を筆頭に歌声合成ソフトウェアVocaloidを用いた楽曲が人気となっている.本来Vocaloidは,歌詞と音符を入力すると歌声に変換して出力される単なる音楽制作用のツールであるが,それがソフトウェアとしての枠組みを超えたムーブメントとなっているのは開発者から見ても大変興味深い.本講演では,まずそもそもなぜ歌声合成が必要なのかということについて考えるとともに,過去の歌声合成技術について簡単に紹介する.また,現状のVocaloid歌声合成システムの内部の合成手法について説明し,最後にVocaloidを含む歌声合成技術が今後どのように進んでいくのかを議論する.

15:50-16:10 講演(2):初音ミク as an interface

伊藤 博之

「初音ミク」は,当社が2007年夏に発売した "歌を歌う" ソフトウエアである.DTM向けのニッチな製品にも関わらず,既に5万本以上を出荷し,音楽ユーザーに限らない多分野のクリエイターを巻き込んだムーブメントが形成されている.本講演では,「初音ミク」をクリエイター同士(または観客同士)を結び付ける "インターフェース" の視点で見たとき,そこに求められる仕様と,著作権法とのコネクティビティ,また「ピアプロ」を通じて皆様に提供している利用許諾システムの概要について述べる.その上で,広くコンテンツ産業の将来のあり方について展望をまとめる.

16:10-16:30 講演(3):運営側から見たニコニコ動画の現在と未来

戀塚 昭彦

ニコニコ動画内外の様々な現象が有機的に繋がり合って,CGMに関する良い循環が起き続けている.例えば,初音ミクという創作に適した素材とそのキャラクター性によって,視聴参加者が集まり,全体ランキングシステムがその「注目」を露出させた.タグなどの横の繋がりと,ユーザー側の「動画紹介動画」や外部のSNSを通した共有,「ニコニコ技術部」も良い影響を及ぼし合っている.こうした外部コミュニティは重要で,私自身もtwitterや「はてなブックマーク」を通して意見・問題を吸収し,改善したり説明をしたりと活用してきた.多数の参加者を集めて維持することが,創作発表の場を支えるインフラとして重要である一方,創作者軽視と誤解されないようにする悩みもある.ニコニコ動画の非同期性とニコニコ生放送の同期性がコミュニティ形成の両輪となる点も考察したい.

16:30-16:50 講演(4):日本のネットカルチャーはどこへ向かうのか: ニコニコ動画の「擬似同期型アーキテクチャ」と「N次創作」の先に

濱野 智史

2000年代後半の日本のネット社会において,「ニコニコ動画」は極めて大きなCGMとしての存在感を有してきた.とはいえそれは,一般的には単なる「若者特有のサブカルチャー」の域を出ないものと思われているかもしれないが,筆者の考えではそれは異なる.ニコニコ動画は,筆者がいうところの「擬似同期型アーキテクチャ」や「N次創作」といった点において,他国のネット文化には見られない日本特異な「イノベーション現象」,いや「アヴァンギャルド運動」といっていいだろう.それでは果たしてニコニコ動画を生み出した私たち日本社会は,2010年代に果たしてどこへ向かっていくのか/いくべきなのだろうか.本講演ではこの問題について考察を行いたい.

16:50-17:30 パネル討論:初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロはどのような世界を切り拓くのか

近年,初音ミク関連以外にも,コンテンツ著作者自身がN次創作を推奨したり,マッシュアップを想定してコンテンツを提供したりする事例が国内外で増えてきた.こうした現象も視野に,4人の講演を通じて,N次創作に基づくコンテンツの生態系ともいえる新たなCGMのあり方を見極めつつ,初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロあるいはそれ以外の社会装置が今後果たしていく役割とそれらの切り拓く未来世界を議論する.

講演者略歴 Biography

後藤 真孝
1998年早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了.博士(工学).同年,電子技術総合研究所に入所し,2001年に改組された産業技術総合研究所において,現在,情報技術研究部門メディアインタラクション研究グループ長.統計数理研究所 客員教授,筑波大学大学院 准教授(連携大学院),IPA 未踏ユースPMを兼任.ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門 優秀賞,科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞,情報処理学会 長尾真記念特別賞等,25件受賞.CGM文化の発展のために「VocaListener (ぼかりす)」を中野倫靖と共に研究.

剣持 秀紀
1993年京都大学大学院工学研究科修士課程修了.
同年ヤマハ(株)入社.音響関係の研究開発に従事.
1996年エル・アンド・エイチ・ジャパン(株)に出向.音声合成に関する技術開発に従事.
1999年ヤマハ(株)復職.以降,VOCALOIDを含む歌声,音声信号処理に関する研究開発を続けている.

伊藤 博之
北海道大学に勤務の後,1995年7月札幌市にてクリプトン・フューチャー・メディア株式会社を設立,代表取締役に就任.
会社のスローガンは,『音で発想するチーム』.世界各国に50数社の提携先を持ち,100万件以上のサウンドコンテンツをライセンス取引しているほか,DTMソフトウエア,携帯コンテンツ,音楽配信など,音を発想源とした製品・技術開発を,フラットな社内体制のもと日々進めている.北海道情報大学客員教授も兼任.

戀塚 昭彦
1990年代,PC-9801, DOS/VからWindowsにかけて,Bio_100% ブランドの一員としてオンラインでゲームやゲーム開発用のライブラリなどを開発,公開.
1999年ドワンゴ入社.
2006年10月からニコニコ動画のリリース前プロトタイプを開発し,以後「ニコニコ動画 開発総指揮」として技術を担当.
現在もコメントサーバーシステムを直接継続開発している.

濱野 智史
1980年生.株式会社日本技芸リサーチャー.
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了,国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員を経て現職.
専門は情報社会論(社会学・メディア論).「ニコニコ動画」研究の第一人者としても知られる.
著書に『アーキテクチャの生態系』(NTT出版,2008年),主な論文に「ニコニコ動画の生成力」(『思想地図vol.2』NHK出版,2008年)など多数.