No.23
3月9日 9:30-12:00
会場:第8イベント会場
イベント司会稲見 昌彦 |
講演・パネリスト松原 健二 吉岡 直人 斎藤 直宏 植原 一充 長谷川 晶一 |
過去30年あまりビデオゲームはIT技術と伴に発展してきた.近年では,ゲームへの応用を主目的として最先端CPUやGPUが開発されるなど,ゲームはIT技術の牽引を担うひとつの要素へと変わってきた.ゲーム技術の特徴は,フォトリアルな表現を可能にする3Dグラフィックス,あたかも人間らしい振る舞いをもたらす人工知能,現実世界とゲーム世界を結びつけるユーザーインタフェースなど,さまざまな分野におよぶ.本セッションでは,世界のゲーム市場の動向,技術開発の現状というサーベイと,ゲーム開発技術のこれからについて,実際に国内大手ゲーム企業において研究・開発に従事している立場から最新の事情をお伝えする.
9:35-9:55 講演(1):日本のビデオゲーム業界の動向と技術開発への取組み
松原 健二
グローバルなビデオゲーム市場は成長を続ける一方,日本のビデオゲーム市場はほとんど伸びていない.ビデオゲーム市場を牽引する据置型において,PS3,
Xbox360の販売台数は欧米に比べ日本はその10分の1程度となっている.日本製タイトルはかつて欧米での売上の上位を占めていたが,今日では欧米企業にとって代わられている.日本のビデオゲーム企業とって欧米市場での収益拡大は最重要課題であり,各社努力を続けている.
欧米で人気のゲームは日本と異なり,リアル性の高いグラフィックス,人間らしい振る舞いをするAIなど,技術的要素が高いという特徴がある.本講演では,日本のこれまでのやり方のどこを改めて行く必要があるのか,欧米はどのような点に優れているのかについて触れる予定である.
また国内の業界組織であるCESA(コンピュータエンターテインメント協会)における開発者育成についても述べる.CESAはゲーム開発力の向上を目指してCEDEC(CESAゲーム開発者カンファレンス)を運営している.2009年に11回目を迎えたCEDECは参加者3,500名と大きな規模に発展した.これからもカンファレンスの国際化,セッションの充実を進め,グローバルな貢献を目指している.
9:55-10:20 講演(2):ビデオゲームは,計算機科学研究のフロンティアたり得るか?
吉岡 直人
つい最近まで,「コンピュータサイエンスの先端研究は,ゲームにはあまり関係ないものである」という認識が,ビデオゲーム業界では一般的でした.しかし,世代を追うごとに高性能化,複雑化するゲームコンソール,お客様のご期待にお応えするためにますます高品質化するコンテンツは,長期化する制作期間をもたらしました.これの解決のための施策の一つとして,私は,日本では情報処理学会に象徴されるような先端技術研究の取り込みを積極化していく必要があると考えています.
これが,ゲーム業界側の要請であるとすれば,もう一つの課題があります.それは,ゲーム業界は,研究者の方にとって魅力的なのか? という課題です.これを命題のひとつとして据えて,当社では,先端研究活動を目的とし,Square
Enix Research Center (SERC) を立ち上げて一年弱になります.SERC では,国内外から少数精鋭の研究者を擁し,次々世代のゲームの要素となるであろう技術を予測,先行研究の結果を学会で積極発表する事業を行っています.この活動についてご紹介し,ゲーム業界における「ある視点」を共有させて頂ければと考えています.
10:20-10:45 講演(3):ゲーム開発の実際と産学連携について
斎藤 直宏
ゲーム開発現場では,魅力的なソフトウェアを目指して,新しい取り組みを常に模索している.進化するコンピュータテクノロジー,高機能化するゲームハードウェアを背景に,ビジュアルデータやサウンドの制作手法も大きく進化し続けている.
本講演では,魅力的なデジタルエンタテインメントを開発する現場での実際を,ゲーム映像を交えながら最新のモーションやサウンドなどの制作過程と共に紹介する.さらに,アカデミックな研究成果を用いたゲーム作品を紹介し,産学連携の導入について考察する.
10:45-11:10 講演(4):ソフトウエアエンジニアリング面から見たゲーム開発の実際
植原 一充
ここ数年のゲームハードウエアの進化や欧米メーカの進出,コンテンツの大規模化に伴うデータ量のインフレ的増加に伴い,ゲーム産業のエンジニアリング環境には大きな変化が生じてきています.
本セッションではエンジニア面から見た現在の大規模ゲーム制作現場の状況を簡単にご説明した後,そこに徐々に取り入れられてきているアカデミック側発祥の技術の現状をCEDEC等の発表を元にご紹介いたします.
さらに,現在ゲーム制作現場が抱えている問題点を発表させていただきそれに関して,将来アカデミック側からの何からの知見をいただければ幸いです.
11:10-12:00 パネル討論:ゲーム研究は楽しい?
ビデオゲームそのものを研究対象とする機会は未だ多くない.面白さという感性を実現する目標は,従来の工学的手法では捉えにくい.一方ではハードウェアからソフトウェアまで最先端の技術を駆使して開発されるという面を持つ.感性と技術のハイブリッドであるビデオゲームを研究対象としてみた場合の面白さ,課題は何か,業界とアカデミックで連携していくことは可能か,について議論する.
稲見 昌彦
1999年,東京大学大学院工学研究科博士課程修了.博士(工学).東京大学助手,科学技術振興機構さきがけ研究者,マサチューセッツ工科大学コンピュー
タ科学・人工知能研究所客員科学者等を経て,2006年,電気通信大学知能機械工学科教授.2008年より科学技術振興機構ERATOグループリーダーを
併任.2008年4月,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授.日本VR学会理事,情報処理学会EC研究会主査.
松原 健二
1962年生まれ.1986 年東京大学大学院情報工学課程修了.同年(株)日立製作
所に入社,メインフレーム,スーパーコンピュータのCPU開発に従事.1997年米国マサチューセッツ工科大学大学院スローンスクール修了.同年(株)日本オラクルに入社,データベースローカライズ,2000年問題,新規事業開拓などに従事.
2001年(株)コーエー入社,オンラインゲームおよびモバイルゲーム担当執行役員を務め,「信長の野望 Online」,「大航海時代Online」,「真・三國無双Online」などをプロデュース.2007年6月に代表取締役社長に就任.2009年4月より経営統合にて発足したコーエーテクモホールディングス(株)の代表取締役社長に就任,現在に至る.2003年4月より
2009年3月まで東京大学情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム特任教授.2007年4月より2009年3月まで独立行政法人情報処理推進機構(IPA)未踏ソフトウェア創造事業プロジェクトマネジャー.
吉岡 直人
2006年スクウェア・エニックス入社.海外ゲーム開発者や関連技術者とのリアルなビジネス経験を活かしての情報交換も進めながら,研究開発部において次々世代ゲーム技術の先行研究を行うリサーチ部隊を率いている.2008年からCEDECアドバイザリーボード委員長.
斎藤 直宏
コンテンツ制作本部 制作ディビジョン 技術部,サウンド部 ゼネラルマネージャー,CEDECアドバイザリーボード副委員長.
1962年生まれ.1984年,東海大学工学部卒業.同年,(株)ジャパンコンピュータグラフィックス・ラボ(JCGL)入社,CG制作システムの研究開発・保守運営に従事.1987年,(株)ナムコ(現(株)バンダイナムコゲームス)に移り,CG映像や大型アミューズメント,業務用・家庭用におけるCGシステムの研究開発・制作プロジェクトの技術支援・データ生成の環境構築に従事.現在に至る.
植原 一充
CESA技術委員会・CEDECアドバイザリボードメンバー
1994年京都大学理学部卒.大手ゲーム会社に入社.家庭用ゲーム機向けのプロジェクトでプログラムを担当し,その後社内での技術情報共有業務に携わる.
2009年退社,現在はフリー.
長谷川 晶一
1997年東京工業大学工学部電気電子工学科卒.1999年同大大学院知能システム科学専攻修了.同年ソニー(株)入社.2000年東京工業大学精密工学研究所助手.
2007年電気通信大学知能機械科助教授.同年准教授,現在に至る.日本バーチャルリアリティ学会,日本ロボット学会,計測自動制御学会,情報処理学会,日本デジタルゲーム学会会員.Euro
Graphics 2004 Best Paper Award,日本VR学会論文賞・学術奨励賞等受賞.バーチャルクリーチャ,物理シミュレーション,力触覚インタフェース,エンタテインメント工学の研究に従事.