No.17
3月9日 9:30-12:00,15:30-17:30
共催:社会情報学会
会場:第10イベント会場
イベント総合司会/オープニング石田 亨 イベント司会(午前)奥山 隼一 イベント司会(午後)辻 高明 招待講演上野 直樹 パネリスト神成 淳司 橋本 大也 松波 晴人 |
講演酒井 徹朗 荒井 修亮 守屋 和幸 服部 宏充 辻 高明 松原 繁夫 塩瀬 隆之 菱山 玲子
|
フィールドは,「分析的,工学的アプローチが困難で,統制できず,多様なものが共存並立し,予測できない偶発的な出来事が生起し,常に関与することが求められる場」である.フィールド情報学は,フィールドで生じる諸問題に対して,情報学の視点からその解決法を提案することを目的としている.その構成要素は,記述,予測,設計,伝達からなり,その方法は多岐にわたる.京都大学では情報学研究科の教員を中心に,フィールド情報学の議論を重ね,一冊の教科書にまとめた.(http://www.kyoritsu-pub.co.jp/shinkan/shin0904_05.html)本セミナーは,この教科書に基づきフィールド情報学の入門を説くものであり,これから自然観察へ向かう大学院生,社会参加の方法を求めるフィールドワーカー,イノベーションを模索するエンジニアなどを聴衆として想定している.
9:30~9:40 オープニング:フィールド情報学とは何か
石田 亨
フィールド情報学では起源の異なる様々な方法が,フィールドにおける記述,予測,設計,伝達のために適用され,相互に関連し成長して行く. フィールド情報学は研究者ばかりでなく,様々な立場の人々にとっても重要である. フィールド情報学を学ぶことで,社会に内在する課題の本質に接近し,問題を解決する素養を身につけることができる.
9:40~10:00 講演(1):リモートセンシングと地理情報システム
酒井 徹朗
フィールド調査に必要な空間情報の収集・分析に有用な情報技術にリモートセンシングがある. リモートセンシングによる広域の情報収集の有用性は高い. リモートセンシングは離れた場所にあるものが何であるか,その状態はどうであるかを分析する技術を指す.リモートセンシングによって得られる広域の属地情報の解析には,その位置情報と,時空間的な広がりを対象とした解析手段が必要となる.
10:00~10:20 講演(2):バイオロギング
荒井 修亮
バイオロギングとは,人の視界や認識限界を超えた現場において,動物自身やそれを取り巻く周辺環境の現象を調べるための手法である. 超音波,電波などを用いたテレメトリー手法や,超小型のデータロガーを動物自身に装着して様々なデータを取得する手法を指す. データロガーの高度化によって,データ量が莫大なものとなっており,データ解析手法に情報学の手法を取り入れることが急務となっている.
10:20~10:40 講演(3):システムダイナミクス
守屋 和幸
システムダイナミックスは,シミュレーション技法のひとつであり,経営学や社会科学の分野でのシステムの動的な解析に用いられている. フィールドから得られた情報や,各種統計情報をモデルに取り込むことで社会システムの動的な変化をシミュレーションができ,ステークホルダー間の合意形成のためのシナリオの提示やシステムに含まれる問題点の検討などに有効な手法である.
10:40~11:00 講演(4):マルチエージェントシミュレーション
服部 宏充
行動主体の個別化を可能とするミクロシミュレーションの実現形態の一つで2つのアプローチがある. 第一は複雑な社会現象の解明を目的としたもので,エージェントは単純化してモデル化される. 複雑な現象は,エージェント相互のインタラクションによって生まれる. 第二は新しい社会システムの創造を目的としたもので,人間や組織の挙動を現実に近い形で再現し,システムを実装する前段の実験や,利用者に疑似体験を与える訓練に用いられる.
11:10~12:00 パネル討論:フィールド情報学と新規ビジネス
フィールド情報学は,既に様々な新規ビジネスと結びつき始めている.このパネルでは,農業とIT,ブログ生態学,ビジネスエスノグラフィなどの新しいビジネスとフィールド情報学の関係を議論する.
15:30~15:50 講演(5):エスノグラフィ
辻 高明
エスノグラフィは,フィールドで生起する現象を記述しモデル化する手法である.記述とは,フィールドへの参与観察によりデータを収集し,その分析を通して現象の構造とプロセスをストーリーとして描くことである.モデル化とは,そうした記述によって,反復して出現する現象のパターンを発見,蓄積し,それらを概念レベルで把握し体系的に関連づけることである.現象を記述しモデル化した成果は,人工物のデザインや人工物が導入された現場のデザインに示唆を与えることが求められる.
5:50~16:10 講演(6):ケースライティング
松原 繁夫
ケースライティングとは,実際に起こっている具体的な出来事を記述する方法. 研究の場合は,ケーススタディの結果をまとめる行為で,執筆者の解釈が明示される.教育の場合は,ケースメソッドとしてクラスで討議を行うための資料を記述する行為で,執筆者の解釈は明示されない. フィールド情報学としては,ケーススタディの立場から,ステークホルダー間の情報の非対称性に着目したい.
16:10~16:30 講演(7):インクルーシブデザイン
塩瀬 隆之
インクルーシブデザインは,製品開発の初め,デザインコンセプトを練る段階から,障害のある人や高齢者をリードユーザとしてデザインプロセスに巻き込む手法である. 多様なユーザニーズは研究者の想定をはるかに超えて複雑である. ユーザをデザインプロセスに巻き込むことではじめてそのニーズが具現化され,デザインそのものがユーザに相補的に巻き込まれる.
16:30~16:50 講演(8):アウトリーチ・コミュニケーション
菱山 玲子
社会福祉分野におけるアウトリーチの手法を学術分野に応用したアウトリーチコミュニケーションは,諸分野の専門家や研究者が自ら社会の中に入り,市民に情報提供の機会を提供しながら双方向のコミュニケーションを実現し,専門的で複雑な問題を共有するための活動である. 情報学を用いてコミュニケーション活動を媒介するためのツールを開発し適用することで,その活動の質と量を改善し,専門家と市民との距離を縮小し,両者の円滑な橋渡しを支援することができる.
16:50~17:30 招待講演:Webに埋め込まれたリアル・リアルに埋め込まれたWeb:情報生態系への状況論的アプローチ
上野 直樹
「アーキテクチャの生態系」は,webのみに閉じられたものではなく,あくまで実践,生活に埋め込まれたものであろう.逆に,現代においては,社会,実践,生活といったものも,「アーキテクチャの生態系」抜きでは語りえない.しかし,従来は,「アーキテクチャの生態系」は,あくまでwebにおける情報生態系として記述され,それを埋め込んでいる”より大きな”社会,生活,実践の生態系を記述することは,困難な課題として留保されてきた.こいしたことから,ここでは,こうした課題にアプローチ可能な理論的,方法論的な観点を提案し,こうした観点に基づく現在進行中のいくつかの研究例を紹介する.
石田 亨
上海交通大学,清華大学,ミュンヘン工科大学,パリ第六大学,メリーランド大学など客員教授.工学博士.情報処理学会,電子情報通信学会,IEEE Fellow.自律エージェントとマルチエージェント研究に20年以上の経験を持つ.デジタルシティ,異文化コラボレーション,言語グリッドに取り組む.
奥山 隼一
平成19年3月 京都大学大学院情報学研究科単位取得認定退学.平成19年4月 京都大学情報学研究科研究員.平成19年9月 京都大学情報学研究科研究員(グローバルCOE).平成19年10月 京都大学情報学研究科グローバルCOE助教.,現在に至る.
専門は遠隔測定技術を用いた水圏生物行動解析.京都大学博士(情報学)
酒井 徹朗
昭和47年3月 京都大学農学部林学科卒業.昭和54年4月 京都大学農学部助手.平成9年4月 京都大学農学研究科教授.平成10年4月 京都大学情報学研究科教授.
荒井 修亮
京大農学部水産学科1980年卒業.農林水産省に入省し,水産研究所の研究予算獲得や,瀬戸内海,北方漁業の漁業調整などに手腕を発揮. 1998年より現職に.電波や超音波発信機を用いて生物の行動を追跡するバイオテレメトリーという「目に見えないものを観る」手法によって,水圏生物の行動実態解明に取り組む.
守屋 和幸
1982年,京都大学大学院農学研究科博士課程中退. 同年,宮崎大学農学部助手. 1991年,京都大学大学院農学研究科助教授.1998年,情報学研究科教授.
京都大学農学博士.
集団遺伝学並びに統計遺伝学手法を用いた家畜の遺伝的能力評価や生物資源情報学分野の研究に従事.日本畜産学会,システム農学会,日本動物遺伝育種学会,肉用牛研究会,情報処理学会等会員
服部 宏充
2004 年名古屋工業大学工学研究科博士後期課程修了.博士(工学).2004年から日本学術振興会特別研究(PD).2004年から2005年にかけて英国リバプール大学.2006年米国マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院客員研究員.2007年より京都大学大学院情報学研究科助教.
神成 淳司
1996年 慶應義塾大学院政策・メディア研究科修士課程修了.1996年よりIAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー/情報科学芸術大学院大学)助手.同校講師を経て,2007年より,慶應義塾大学環境情報学部専任講師.現在に至る.その間,2000年から2005年まで岐阜県情報技術顧問を兼務.現在,経済産業省産業構造審議会委員,農林水産省農業情報学研究会委員等を務め
る. 博士(工学)
橋本 大也
1970年生まれ.起業家.データセクション株式会社取締役会長.大学時代にインターネットの可能性に目覚め技術ベンチャーを創業.主な著書に『情報力』『情報考学--WEB時代の羅針盤213冊』『新・データベースメディア戦略.』『アクセスを増やすホームページ革命術』等.(株)早稲田情報技術研究所取締役,(株)日本技芸 取締役,株式会社メタキャスト 取締役,デジタルハリウッド大学准教授,多摩大学大学院経営情報学研究科客員教授等を兼任.
松波 晴人
1966年 大阪生まれ.1992年 大阪ガス(株)入社.基盤研究所に配属.以後2006年まで研究所所属.生理心理学,人間工学関係の研究活動に従事.
2002年 コーネル大学大学院にて修士号(Master of Science)取得.2005年 (株)エルネットと契約し,行動観察ビジネスを開始.
http://www.lnet.co.jp/research/idea/kansatu.html
2006年 和歌山大学より博士号(工学)取得.博士論文のタイトルは「家庭用機器開発評価プロセスにおける行動観察手法に関する研究」
2007年 米国Giantant社の技術顧問就任
2008年 (株)エルネット技術顧問,財団法人社会経済生産性本部サービス産業
生産性協議会「科学的・工学的アプローチ委員会」委員就任.編著「ヒット商品を生む 観察工学」(共立出版)を出版.
2009年 大阪ガス 行動観察研究所を設立し,所長に就任.
辻 高明
2007年3月京都大学大学院教育学研究科博士後期課程学修認定退学.関西大 学人間活動理論研究センター・ポストドクトラルフェローを経て,同年10月より現職.近著に「日米間の遠隔協同授業における日本側学習者の英語学習への状況論的アプローチ」(日本教育工学会論文誌30巻4号,2007)など
松原 繁夫
1992 京都大学大学院精密工学専攻修士課程終了.1992-2006 NTTコミュニケーション科学基礎研究所.2002-2003 University
of California,Berkeley 客員研究員.2007- 京都大学大学院情報学研究科 社会情報学専攻.
塩瀬 隆之
1998年京都大学大学院工学研究科修士課程修了.同年,同大学院工学研究科博士後期課程進学,日本学術振興会特別研究員DC1着任.2000年10月より神戸大学大学院自然科学研究科助手.2002年10月より京都大学大学院情報学研究科助手.その間,ATR知能ロボティクス研究所,ATRネットワーク情報学研究所・客員研究員併任.2008年4月より慶應義塾大学SFC研究所
上席所員(訪問)併任.2008年11月より京都大学総合博物館准教授,現在に至る.
菱山 玲子
2005年京都大学情報学研究科社会情報学専攻修了. 同年 京都女子大学現代社会学部 准教授.2007年早稲田大学理工学術院 准教授 現在に至る.
上野 直樹
国立教育研究所 教育指導研究部 統括研究官を経て,2003年4月より現職.