【1】手頃な情報保障: 情報系研究者にできること  発表者は、デジタルセンセーション株式会社の坂根裕。  「手頃な情報保障:情報系研究者にできること」という内容で発表。 【2】自己紹介  最初に自己紹介。  私は静岡大学情報学部助手と、デジタルセンセーション株式会社社長という2つの顔を持つ。  ものづくりが得意な研究・開発者。  福祉研究は今回話するものが始めての取り組み。  内容として、まず身近にできて役に立つところからという考えで、「講演の場」を支援する研究に取り組む。  内容は実際見ていただいているとおり。 【3】講演における聴覚情報保障  私は本研究に参加するまで、情報保障を強く意識したことはなかった。  共同研究者との議論を通して情報保障の難しさと、重要性について意識するようになった。  この分野は素人だが、学会発表のような講演における聴覚情報保障の現状について説明したい。   ・手話通訳   ・OHP要約筆記   ・PC要約筆記   ・音声同時字幕システム  このように、用途に応じてさまざまな情報保障が実際に行われている。 【4】講演の情報保障に対する歩み寄り  しかし、他分野の研究会や講演では情報保障の考えは浸透していない。設備の手配と費用負担から気軽に利用することが難しい。そういう場所でもなんとかして発表内容を分かりやすく提示できないか?  ここで、発表者と講演者で歩みよりができないか考えてみた。発表準備にはなにかしらのメモを作成することが多い。見やすい要約になっていなくてもそれらを役立たせることができると考えた。  プレゼンテーションツールのノート機能を利用した手頃な聴覚情報保障方式の提案・実現をきっかけに、聴講者のみなさんも手頃な情報保障にお誘いすることが目的。 【5】“手頃な”字幕提示システム  本研究で開発したツールは、Microsoft PowerPointのノートから内容を抽出し、スライドショーと同期して拡大投影する。  ノートを提示しているPCがサーバ、発表者スライドからノートを抽出するのがクライアント。  システムの設計方針は大きく4つ   1. システムが簡単(短時間・容易)に設営可能にする   2. 講演者の負担を少なくする   3. 字幕の見せ方がカスタマイズできる   4. 即興的な発言や質疑応答にも対応できる 【6】スライドとノート  図はPowerPointでのスライド作成画面例。  画面上部にスライドのデザイン、下部にノートを記述できるエリア。  スライドを見ながら発表内容を書き込む。 【7】1. ソフトウェアの導入を簡素化  ノート提示サーバに要求されるスペック:  Microsoft .NET FrameworkがインストールされたPC  機器構成:  ノート提示サーバと発表者のPCで実行するノート抽出クライアントが、   1. ネットワークで通信可能な異なる2台のPCであるか、   2. プライマリおよびセカンダリスクリーンを出力できる1台のPC であれば動作。  ※運用スタイルに応じて適切な方法を選ぶ。 【8】2. 講演者の負担を軽減  発表者はソフトのインストールは不要。  ソフトが入ったUSBメモリをPCにセットするだけでOK  サーバアドレスの設定だけ行い、あとはパワーポイントを実行して発表を行う。 【9】3. 提示方法のカスタマイズ  ノートの見せ方は運用や参加者に合わせて変えることができる自由度が必要。  本ツールでは字幕提示画面はHTMLで作成。   ・id=“note”を持つdiv要素やspan要素内にノート文字を自動挿入   ・CSSやJavaScriptで見やすいデザインやインタラクティブな機能を実現可能  ※スクロール機能やタイマー機能はJavaScriptで実現 【10】テンプレート例  テンプレート例。背景色や文字フォント、色などが異なっている。 【11】4. 即興的発言や質疑応答への対応  雰囲気を見ながらの冗談や脱線話は、話を補強し理解を助ける要素になり得る。  発表後の質疑応答は、研究内容に本質な議論であることが多い。  そこで、ノート内容を一時的に出力用PCにストックし、補佐によるノートの編集・追加後に画面に出力できる機能を実装することで実現。  図の左が発表者、PCから抽出されるノートは補佐の使うPCにストックされる。補佐役はノート内容を編集し、その内容を出力。 【12】システム構成  システム構成について説明。  発表者PCに接続したUSBメモリ内にあるツールがノートを抽出。  TCP8341ポートを利用してノートを提示ツールへ送信。  提示ツールはノートをHTMLテンプレートに埋め込み画面を作成。  後に説明するが、いろいろな運用方針を実現するため座長補佐も参加。 【13】検討1:オトシドコロはこれで良いのか?  検討1は、運営者サイドの視点。「オトシドコロはこれで良いのか?」  本研究では、オトシドコロは発表者、聴講者、運営者の歩み寄りが必要。  オトシドコロの設定は3者のリソースや要求に依存する。  私は日頃、「運用も含めたシステムデザインが重要」と主張。この分野では、まさにこれが重要な要件となり得ると確信。  提案システムは複数の運用スタイルを想定してデザイン。  スタイル0:ノート準備がない場合。従来の発表と同じ。  スタイル1:ノート準備があり、補助者は出せない場合。単純にノート内容を提示する。  スタイル2:ノート準備があり、簡単な補助が期待できる場合。ノートを提示し、話しての速度に応じて話をしている箇所を指示する。  スタイル3:ノート準備があり、多くの補助が期待できる場合。ノートの提示に加え、即興的発言、質疑応答をタイプ。 【14】検討2:ノート作成,ネットワーク接続など面倒  検討2は、発表者視点での問題。  参加者に余計な作業を多く課すと、積極的に参加してくれなくなる。これまでの何回かの実運用により得た経験知として、2つの方針が有効。  1. 楽にする   発表資料を論文形式だけでなく、スライド+ノートの縮刷をOKとする。  2. 餌でつる   外部ネットワークへ接続できるルータを設置して公開する。勝手に接続していてくれる。非常に便利。 このように運用面を工夫すれば解決への1歩を踏み出せるのではないかと思う。 【15】検討3:要約の質がまちまちで困る  検討3は聴衆視点での問題。要約の質がまちまちで困るというもの。  公共の場に設置された点字間違いしかり、情報の粗製乱造に意味があるのかという問題。  完全な情報以外は許容しないという方向は、取り組みに対して否定的になる人を増やしてしまうのではないか? 間違えた情報を出すことが問題なのではなく、間違いを正す手段が無いことが問題。  提案ツールでは、ノート内容を動的に抽出するため、ノートは発表直前まで編集できる (あまり褒められた話ではないが) 。現状まだ未対応であるが、要約マニュアルによる方針の提示というのも効果的な戦略となる。  このように、意識を下げず質を向上する方法論を模索することが重要である。 【16】まとめ  最後にまとめ。  講演での情報保障システムという観点から、運用を含めたシステムデザインの在り方や研究者・開発者の考え方を実体験から述べた。  今後は、「オトシドコロ」を、環境や関与する人に応じて設定できる柔軟な研究やシステム開発技術が求められる。  また、今日は触れる時間がなかったが、字幕のログを議事録として保存できる機能を有しており、情報の副次的利用の促進もカギではないか。  皆さんが得意な身近なところから、このような意味のある活動が広がっていって欲しい。